1996年、フランス映画。とても暗い内容だが、個性的な俳優達の演技による素晴らしい映画。アルプス山中に自動車窃盗団のボスの山荘がある。ボスには二人の息子がいて、長男が家業を継ぎ、次男はリヨンの刑事になって家族とは対立している。ボスの家には長男と美しい妻、そして息子の少年が暮らしている。この少年の存在が重い。少年とそれぞれの登場人物の心の距離が、映画のストーリーを形作る。
次男の刑事アレックス(ダニエル・オートゥイユ)は意図的に子どもを持とうとしない。そのために妻とは離婚している。それは、一家で窃盗団を組織しているボスである父親への強烈な反感の意思表示となっている。父親もこの次男を嫌悪している。
刑事アレックスは、1年前に万引きで取り調べた少年のような娘ジュリエット(ロランス・コート)と長男がオーナーであるクラブで再会する。長男はクラブをジュリエットとその兄で、窃盗団の一員であるジミー(ブノワ・マジメル)に任せている。クラブからの帰り、ジュリエットが車に滑り込むように同乗してきた。
ジュリエットの誘いを断るものの、いつしか二人は安ホテルでの密会を重ねる。愛のない、服を脱がない、言葉のない不毛のセックスを二人は続ける。ジュリエットは大学の哲学教師マリー(カトリーヌ・ドヌーブ)の部屋を訪れては、愛し合っている。バスタブの中で、ジュリエットはマリーにセックス以外に二人の仕事を持ちたいという。そして、マリーはジュリエットをモデルに本を書き始める。
ある夜、目の前で衝動的な自殺未遂を起こしたジュリエットをマリーは前夫の精神医師に託す。ジュリエットが消えたために刑事のアレックスは大学に行き、マリーに接近する。二人は同じ少女と関係する大人の男と女として互いに接近しつつも一線を超えない。
大規模な自動車窃盗計画に失敗して、現場を仕切っていた長男が警備員に射殺される。この計画にはジュリエットも初めて参加し、警備員に顔をみられる。彼女は組織の手引きでマルセーユへ飛ぶ。
マリーは大学を辞め、部屋にこもってジュリエットの残したテープを聞きながら、本の完成を急ぐ。訪ねてきたアレックスにマルセーユのジュリエットとは電話で話しをしていると言う。マリーは原稿を書き上げ、それをアレックスに送付して、飛び降り自殺をしてしまう。アレックスは原稿に同封されていたジュリエットが働く書店の住所を見て、マルセーユに向かう。書棚の影から、美しく気品ある女性に変貌しているジュリエットを見て、合わずにリヨンに戻る。
夫をなくした長男の妻は息子の少年をなんとか、義弟のアレックスに近づけようとするが、祖父の影響下にある少年はアレックスになじまない。いつしか、ジュリエットの兄、ジミーは山荘に出入りし、ボスの指示をあおぐ立場に立っていた。遅くなって、ボスに泊まって行くように言われたジミーだが、少年はその夜、母とジミーが関係することを確信し、それを受け入れる。
刑事アレックスの孤独な狼のような危険な存在。劇中、孫のいる年齢で教え子の女子学生との愛に浸る、美しい哲学教授マリー。アレックスと不毛の愛を続けながら、同時に同性のマリーとの愛も続ける少年のようなジュリエットのエキセントリックな肢体。その兄、ジミーのナイフのような危ない美貌。ジミーを慕っていく孤独で早熟な少年。
長男と次男の根源的な憎悪の構造を易しく解き明かす、濃密な家族問題映画。