シドニーの選択 / マイケル・ド・ガズマン著、親子関係をリアルに描く現代の児童文学

優しいだけの児童文学を読みたければ、本書をパスした方がいい。現代の親子関係を厳しくリアルに描いているから。しかし、その先にある結末ゆえ、その優しさにホッとできる。とてもいい小説だった。

12才の男の子、シドニー・T・メロン・ジュニアが主人公。シドニーは生まれつきメロンのような大きな頭で、ごていねいに苗字がメロンなもので、メロンヘッドとからかわれる。苗字を知らなくても、メロンヘッドと言われるぐらいの身体的特徴を持った男の子なんだ。からかわれないまでも、人はつねにジロジロとシドニーの頭を眺める。いつも、いつも、視線を感じているがシドニーにそれに慣れるということがない。

両親はシドニーが6才の時に離婚している。シドニーはどちらに定まることなく、行ったり来たりを繰り返している。つまり、居場所がない。母親も父親も、決してシドニーをじゃけんに扱うわけではない。優しい。しかし、その優しさを具体化する力がない。だから、常に優しい言葉はウソで、言葉に出さない本音はシドニーに出て行って欲しいと思っている。シドニーは優しい言葉の裏に隠れている本音をいつも見破っている。だから、つねにここにも無いことを言ってみたり、行動にでたりする。ほんと、不憫で可哀想な男の子だ。

父親にせよ、母親にせよ、自分は本当に息子のシドニーを愛していると思い込んでいることが、親子関係の問題を複雑にしていると思う。親は子どもを愛していると、思い込もうとしているのが真相なんだろう。

こんなにリアルでシビアな内容の児童文学があるなんて、ほんとうに驚いた。まさに、現代のアメリカだと思った。映画と音楽とか、アメリカのエンターテイメントが世界に及ぼしている影響は強い。本書のような小説を読むとそんなアメリカの底力を感じてしまう。

シドニーは、母親のいるロスと父親のいるシアトルを飛行機で行ったり来たりしているが、ある日、ニューヨーク行きのバスに乗り込んで、アメリカ大陸を横断する。ロードムーヴィーだ。様々な人との出会いにほろりとしたり、暴力に出会ったりもする。しかし、最後の本当の出会いが待っている。

「訳者あとがき」によると、著者のマイケル・ガズマンは、アメリカのテレビ映画を中心に活躍する脚本家だそうだ。小説の中には本書と同じ12才を主人公にしたものが以下の3冊があるそうだ。
・Beekman’s Big Deal
・The Bamboozlers
・Finding Stinko

装丁の絵も内容を伝えて、とてもいい。

シドニーの選択
原題 Melonhead
著者 マイケル・ド・ガズマン(Copyright 2002 Michael de Guzuman)
訳者 来住道子
画 ささめや ゆき
発行 草炎社、2007年3月

投稿日:
カテゴリー: 読書