本書は、タイトル通り、たくさんのジャズマンの証言からなっている。証言は、ほとんどが、著者自身がインタビューやプライベートの会話から聞き出したものだ。だから、ジャズの生々しいドキュメントに接している気分になる。ビバップの誕生から始まって、現代のジャズまでだ。300ページ弱とジャズ史の概観を知るには、手頃な濃さになっている。ビバップから現代を語るのには、とうていこれだけでは納まり切れないだろうが、読む方はジャズの流れのアウトラインが一気に分かる利点がある。
ジャズのジャンルについて、えこひいきなしに一貫して扱っていることが、ジャズ史を理解したいという、今のぼくには役立つ本になっている。50年代ジャズ、または、70年代のフィージョンに肩入れする人たちは、おうおうにして、フリー・ジャズを軽視する。本書の著者はそのようなスタンスをとらない。なぜ、あの時代、フリー・ジャズが演奏され、聞かれたかを説明している。
ぼくは、十代の後半、モダン・ジャズと出会うが、それは50sジャズだった。レコードは買えないので、もっぱらラジオ放送に頼っていたが、その頃、ジャズを流す番組は多かった。でも、スイング・ジャズとハード・バップにかたよっていた。60年代の中頃で、フリー・ジャズという時代の空気に触れるや、ぼくはそれにノメリコンでいった。70年代後期フリー・ジャズが終わるが、いまさら、フィージョン・ジャズを選択できなかった。パンク・ロックにのめり込んだ。パンクやニューウェブ・ロックがメジャーになってからは聞かなくなった。80年代は聴く音楽を失って、バッハやモーツアルト、現代音楽を聞いていた。
90年代に入ると、生活に追われる状態で、音楽どころではなくなった。数年前、再び音楽を聞く気持ちになったときに、ぼくはジャズを選んだ。いま、ビバップからハードバップを順を追って聞いている。やっと、1957年までやってきた。ぼくはジャズから時代の空気を感じ取ろうとしている。そうすると、どうしても参考書が必要だ。本書は生きたジャズ史といいう感じで、時代の順を追ってジャズを聞き続けているぼくにとって、ほんとうに助けになっている。
ジャズ・トーク・ジャズ 証言で綴るモダン・ジャズの真実
著者 小川隆夫
発行 河出書房新社、2006年4月