ギルバート・グレイプ / ジョニー・ディップ、ディカプリオ、ジュリエット・ルイスのヒューマンな映画

1993年アメリカ映画、ラッセ・ハルストレム監督。居間の白黒テレビには50年代の名作『終着駅』が放映されている。アメリカ人の若い人妻(ジェニファー・ジョーンズ)が旅先のローマで英語教師の青年(モンゴメリー・クリフト)と恋に落ちる映画だ。画面には若いモンゴメリー・クリフトの美しい顔が映し出されている。画面に見入られているのはギルバート(ジョニー・デップ)の母だ。長男ギルバートの言葉だと、浜に打ち上げられたクジラだという。アメリカ中部のアイオワ州の田舎町で一番の美人だった母は夫を自殺で失った以来、過食症に陥って、ソファーに座って食事をしテレビを見る毎日だ。ギルバートには姉と弟、そして生意気盛りの妹がいる。弟(レオナルド・ディカプリオ)は知的障害を持った自閉症的な人物設定で、18歳のこの人物をディカプリオが驚くほどの演技力でこなしている。ギルバートはこの弟の面倒を見ていている。たえず、目が離せないのだ。

映画は田舎の一本道で、トレーラーの車列が通るのをギルバートと弟が待つ所から始まる。そのうちの一台が故障して、部品が届くまで町に滞在することになる。そのトレーラーには祖母と共にベッキー(ジュリエット・ルイス)が乗っていた。映画は、アイオワの田舎町を舞台にギルバートとベッキーが知り合い、互いに好意を寄せ合うまでが描かれる。ギルバートは食料品店の店員をしなかがら家計を支えている。ベッキーと出会うまでは人妻との不倫だけの閉ざされた世界で暮らしていた。

ここまで書くとハッと思い当たる映画好きの人は多いに違いない。アメリカ映画の傑作中の傑作、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ラストショー』(1971)だ。『ラストショー』はテキサスの小さな町を舞台にした映画だった。劇中、町で唯一の映画館が閉館することになり、ラストに上映されたのが、ハワード・ホースクの西部劇の名作『赤い河』(1948年)。ジョン・ウェインとモンゴメリー・クリフトだ。映画の中でも若いカウボーイのモンゴメリー・クリフトが田舎の映画館のスクリーンに大写しされていたのが印象的だった。

『ギルバート・グレイプ』のラッセ・ハルストレム監督はモンゴメリー・クリフトでお客にヒントを与えていたのかもしれない。しかし、本作は『ラストショー』ほどの閉塞感がないだけ、少し救われる。母を失ったギルバートは再び、ベッキーと再会し、明日に希望をつなげて映画は終わる。寡黙な青年を演じるジョニー・デップが涙が出るほどにいい感じ。ラッセ・ハルストレム監督は撮影にイングマール・ベルイマン監督のコンビで知られるスヴェン・ニクヴィストを起用して、しっとりとした映像を作っている。

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カテゴリー: Movie