B3の折り込みポスターが付いているロックのボスター集。それはスーサイドとデヴィッド・ボウイが両面に印刷されている。グラム時代のボウイは分かるが、ニューヨーク・パンクのスーサイドが選択(しかも表面)されているのは驚きだ。ポスターを掲載するビジュアル・ページとは別にロック史の記述が充実している。活字が小さいうえに、凝ったページデザインのために読みにくいが、内容が面白くてなんとか読んだ。非常に客観的に、また辛辣にポップミュージックの変遷をたどっている。また、ポスターそれぞれにも解説が添えられているかなりの力作だ。<br /><br />内容は、グラム・ロックのマーク・ボランから始まる。ボウイ、ロキシー・ミュージックなどが続く。次は、初期のニューヨーク・パンク、ニューヨーク・ドールズやルー・リード。そしてスーサイド、パティ・スミス、テレビジョン、トーキング・ヘッズと続く。これらニューヨーク・パンクの影響を受けて、ロンドンでセックス・ピストルズやクラッシュが成功する。<br /><br />「アイデンティティ」と題された第4章の冒頭はニューヨーク・パンクとロンドン・パンクの違いを明確にしていて面白い。ニューヨークの方が約10才年上だが、バックグラウンドは文学的伝統に根ざしてグラムを否定している。一方、ロンドンのパンクロッカーたちはグラムのファンとして成長し、ボラン同様にスターの座を目指した、とある。<br /><br />やがて商業主義は「パンク」というレッテルを嫌い、「ニューウェイブ」というフレーズを広める。そしてパンクは死を迎える。この部分がとても良いので引用しておく。<br />「イギリスでのパンクの死はグラムの死を彷彿とさせたが、そのグラムの死もかつてはモッズの死を彷彿とさせていた。ここでも全盛期のパンクは労働階級の若者とアートスクールの繊細な神経が結びついたものだったが、またもやアーティストの翼が新たな形と新鮮なチャレンジを求めて申し訳なさそうに飛び立ったときに、その結びつきは解かれてしまった。モッズやグラムとの重要な違いは、パンクが商業的な影響を与えられなかったことだ。」(p101)<br /><br />最後の章には、ジョイ・ディビジョンとポップ・グループのポスターが大きく掲載されている。1980年はジョイ・ディビジョンの憂鬱な存在であるボーカリストのイアン・カーティスが自殺。そして、ポップ・グループのファースト・アルバム『Y』の不協和なサウンド。当時のぼくはこの二つのバンドに夢中になると同時に、これを最後に音楽を聞かなくなった。<br /><br />本書は、マルコム・マクラーレンの1982年のポスターで終わる。それはヒップホップだ。本書のロック史もヒップホップの紹介で終わる。<br />70年代にサウスブロンクスから一見マイナーなディスコのサブジャンルとしてヒップホップが登場するが、それはポピュラーカルチャーの最先端としてロックンロールそのものに挑み、それを乗り越える音楽だ、とヒップホップを紹介している。<br /><br /><strong>カルト・ロック・ポスター集 1972-1982</strong><br />著者:ロジャー・クリムリス、アルウィン・W・ターナー<br />翻訳:大田黒奉之<br />発行:ブルース・インターアクションズ、2007年4月