ワイト島1970―輝かしきロックの残像―

THE ISLE OF WIGHT MUSIC FESTIVAL 1970(ワイト島1970―輝かしきロックの残像―)』のビデオを市立図書館で見つけた。今は、DVDがリリースされているが同じものだろう。これはイギリスの離島ワイト島で1968年から行われているミュージック・フェスティバルの第3回目1970年8月のドキュメンタリー。この3回目は60万人を動員して、前年のウッドストックの動員数を越えた。ぼくは、ウッドストックの映像は昔からあっちこっちで何度も見ているが、このワイト島は知らなかった。初めて見たがウッドストックの映像との違いに驚いた。ウッドストックは愛と平和のヒッピーたちが牧歌的に、また好意的に編集されていたのに対して、ワイト島のそれはほとんど暴徒寸前のヒッピーたちの姿が捉えらえている。しかも、主催者とヒッピーたちの対立が繰り返し映し出されるために会場の緊張感にいやでも思いをはせてしまうような編集になっている。編集のスタンスがウッドストックとワイト島では全く違うのだ。あるいは、1年間の差か。

ジミ・ヘンドリックス、ドアーズのジム・モリソンそしてザ・フーの演奏などはほんとうに素晴らしいと思う。だから、編集をもっとステージに絞って、ヒッピーたちの振る舞いに時間をさくべきではなかったのかもしれない。しかし、暴徒寸前の大群衆が生み出す緊張感は半端でない。どんなに巧みに編集してもあの場所の緊張を正確に伝えることは難しいだろう。編集者はその数パーセントでも伝いえたいと努力したのだと思う。その緊張を前にしたジミヘンやジム・モリソン、ピート・タウンゼントのすばらしいパフォーマンスがあったんだと思う。そもそも彼らのメッセージがこうした緊張を生む原動力になったはずで、いまさら怖じ気づく理由はないと思う。ステージに客が上がってきて、不安な表情を浮かべるジョニ・ミッチェルとジミヘンらは違う。

と言ってもステージ上のプレーヤーは怖かった思う。ぼくも見ていてイヤでも半年前の1969年12月のローリング・ストーンズのオルタモントの映像を思わずにはいられなかった。その会場で警備のヘルス・エンジェルスが黒人青年を刺殺したオルタモントの悲劇として名高いコンサートだ。レーザー・ディスクを持っていたが、そのときのミック・ジャガーのパフォーマンスが痛々しくて何度も見る気にはなれずに早々に処分した。その時の異様な緊張感をワイト島の映像が思い出させる。。

今から見ると、傍若無人なヒッピーたちの振る舞いに眉をひそめたくなるが、当時の空気を知って見ていると、複雑な感情にとらわれる。ぼくがあの会場にいたとすれば24才だ。素直に入場料を払ったろうか、フェンスを壊す方だったろうか。時代の大きな変わり目の抗し難い力が働いていたことを痛いほど感じる。主催者は再三にわたって商業主義のコンサートではないと聴衆に力説するが、反戦フォークシンガーのジョーン・バエズの変わりようを見ていると、主催者の訴えもどうかなと思ってしまう。主催者には同情も半分という感じだ。

ぼくの1970年当時はフリー・ジャズに夢中の頃で、ジミヘンもモリスンも名前は知っていたが、彼らのロックを低俗なポップミュージックと同列に置いて、あえて聞かなかった。今から思うとつまらない考えだが、ジャズは高尚な音楽と考えてロックを見下していたんだ。そのせいであの時代の素晴らしいロックをリアルタイムに聞く機会を逃がしていた。このコンサートの直後のジミヘンの急死から10年後、ぼくはジミヘンをリアルタイムに聞いていたあるロックミュージシャンと仲良くなり、長時間に渡ってジミヘンが亡くなった当時の喪失感を語るのを聞いてことも思い出した。ぼくがジミヘンやジム・モリソンを聞くのは70年代後半にパンクロックに出会ってからロック史をさかのぼるように聞き始めたんだ。リアルタイムに聞かなかったことは残念であると同時に、ワイト島のフィルムを見ていると、ロックに傾倒していなくて良かったとも思った。これは当時を思い出すと、とても複雑な心境で簡単には表現できない。

今回、この映像を見る最大の期待は、マイルス・デイビスだった。このフェスティバルに出演したマイルスのバンドにはチック・コリアとキース・ジャレットがいる。ジャック・デ・ジョネットのドラムも見たかった。しかし、たった数分しかない、もっと見たかった。CDでは『Munich Concert』のボーナストラックとしてワイト島のライブ演奏が収録されている。

本編を書くにあたってネットの以下のページを参考にさせていただきました。
ワイト島ポップフェスティバル
当時のプログラムが掲載されている。
ワイト島ミュージックフェスティバル(1970)
DVDを見てのレポートが参考になった。
1969年 ~夢のウッドストック、現実のオルタモント~
1969年をロックが全盛期を向かえた視点からの記述。

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カテゴリー: Music