先日、バーニンガムの初期の作品(3作目)『バラライカねずみのトラブロフ』を読んで、バーニンガム自身の多くの絵本の画風との違いに興味を持った。本書は1965年、5作目の絵本。『バラライカねずみのトラブロフ』でも馬が気になっていた。力強い独特の馬だった。ジプシーの楽士たちの旅の馬で、表立ってストーリーにあらわれることがなかった。本書は馬が主人公だ。画風は『バラライカねずみのトラブロフ』と同じで、とても力強いタッチだ。強いタッチの絵の中に、ある「寂しさ」があるのも同じだ。
主人公の馬はロンドンで古鉄を集める商売している男の荷車を引いている。名をハンバートという。ある日、顔見知りの立派な馬たちが、ロンドンの新市長をのせた黄金色の馬車を引いているパレードに出会う。なんと、その馬車の車輪がこわれてしまう。おつきものは立派な自動車を用意するが、新市長は馬車にこだわる。そこへハンバートが駆け寄り、市長は喜んで、鉄くず用の荷台から市民の歓声に手をふるのだった。ハンバートは一生忘れない思い出を手にいれた幸せな働く馬だ。
ぼくの子どもの頃も絵本のロンドンと同じで、自動車はすでに多かったが、馬車もまだ活躍していた。近所には蹄鉄を打つ鍛冶やもあった。馬が一生懸命に荷車を引く姿に哀れみを感じていた。運搬を馬だけに頼っていた西部劇のような時代なら、そんなことはないと思う。すでに、運搬手段が自動車に取って変わられのが確実な世の中に残った少数の働く馬だから、一抹の寂しさがあったのかもしれない。冬は馬車ではなくて、大きなそりを引いていた。スキー遊びの帰りなど、からの荷台を見つけて、「おじさん、乗せて」っていうと、快く乗せてくれたものだ。
はたらくうまの ハンバート とロンドン市長さんのはなし
作 ジョン・バーニンガム((c) 1965 by John Burningham)
訳 神宮輝夫
発行 童話館出版
原題 Humbert