サリーおばさんとの一週間 / 原題は「The Trolls(トロル)」という児童文学

『サリーおばさんとの一週間』っていう邦題はすごく説明的で、面白味がない。タイトルが『トロル』だったら、んッ、となる人が多いんじゃないかと思う。妖精の一種なんだけど、悪い妖精。イメージがすごく悪い妖精なんで、これをタイトルにしたってことで何かがあると思うんじゃないだろうか。トールキンの『ホビットの冒険』に出てきたりするし、読んでないけど、『ハリー・ポッター』にも出てくるらしいので、わりとポピュラーな妖精だ。

オハイオ州に住む家族の話しなんだけど、両親はパリ旅行をする。予定していたベビーシッターが病気になり、変わりが見つからない。ほかにもいろいろ当たったけど、もう、お父さんのお姉さんに頼むしかないと奥さんが主張して、嫌がるお父さんを無視して頼んでしまう。

さて、10歳(女)、8歳(女)、6歳(男)の3人の子どもたちは一週間をおばさんのサリーと過ごすことになる。おばさんは、お話がすごく上手で、子どもたちはたちまちおばさんのお話に夢中になる。

おばさんの語るお話は、おばさんやお父さんが子どもの頃を過ごしたカナダ、バンクーバー島の森の中の家での出来事。村には(自称)魔女たちもいた時代で、妖精がいたって不思議でない。そんな場所を舞台に登場するのは、子ども時代のお父さんたちやおじいさんたちということになる。子どもたちにしたらおもしろくないわけがない。

でもね、愉快そうに見えるお話だけど、テーマはおばさんとお父さんの不仲についてなんだ。姉弟の不仲がテーマ。その原因を作ったのは両親やおじさんたちであるらしいことが暗にほのめかされる。ほんわかとした体裁をとりつつ、中身はとてもシリアスでびっくりした。

日本だと、そんな不仲も時が解決するとか言っちゃって、仲良くなってハッピーエンドだろうけど、本書にはそれがない。不仲は不仲のまま。子ども時代のある出来事に端を発する原因は、後戻りが出来ない。キツい小説だ。でも、この子らには、わたしたちのような不仲にはなって欲しくない、というおばさんの温かい気持ちが背景にある。

最初から、半ばまでは、子どもたちに慕われる気のいいおばさんのお話ということで、ぼくもなめてかかってた。半分ぐらいで、もう止めようかな、とも思ったけど、トロルで出て来ないじゃん、と気を取り直して読んで、ほんとに良かった。村の魔女が出てくる当たりから俄然、大人の読み物になって行った。なぜ、トロルか・・・。それは書かない。

サリーおばさんとの一週間
原題 The Trolls
著者 ポリー・ホーヴァス
翻訳 北條文緒
発行 偕成社、2007年4月

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カテゴリー: 読書