砂 / ウィリアム・メイン著のイギリスの暗い児童書

30年ほど前のことだが、児童書を良く読んでいた。今でも、アラン・ガーナーやルネ・ギヨなどは処分せずに残してある。残念なことにウィリアム・メインの『砂』は本箱になく、図書館へ行くが見つからない。検索して書庫から出してもらった。

カルト・ロック・ポスター集 1972-1982』やビデオでパンクロックのことを読んだり見たりしていたら、突然に昔読んだ『砂』を読みたくなったわけ。しかし本書は音楽をテーマにした小説ではない。音楽とは何のつながりもないが、読んでよかった。

本書はイギリス、ヨークシャー州の海岸沿いの小さな町が舞台。中学生ぐらいか、主人公はエインズリーと言う男の子で、何かとうるさ型の姉アリスとはいつも喧嘩ばかり。母親は二人の喧嘩を公平に扱いながらも、こまったものだと思っている。父親は子どもたちにあまり干渉することもなくて出番が少ない。平凡な4人家族だ。イギリスの労働者の典型的な家庭を描いているようだが、ぼくには本当のところは分からない。日曜日には家族揃って教会に行くというありきたりの家庭だ。

その教会が海からの風で砂に埋もれようとしている。教会だけでなく町全体が砂で覆われるかのようで、そんな陰気な空気に支配されている。エイズリーはいつも固定した数人の級友たちとつるんでいる、学校でも札付きのワルだ。小説は、この連中が砂に埋もれたトロッコ用の軌道を掘り出し、土地の所有者とトラブルを起こしながら、トロッコを動かす話だ。彼らはその作業中に砂から巨大な化石を発見する。

それを女学校の校庭に運んで、骨を平たく並べるいたずらをする。怒られると思ったら化石発見ということで地元メディアに取り上げられる。ま、化石ではなかったというのがオチ。何だったのでしょう、ここでは書かない。

ロックのビデオを見てたら、まだ有名になる前のセックスピストルズのフィルムでジョニー・ロットンがイギリスは階級社会だと叫んでいるシーンがあった。本書はイギリスの階級社会をあからさまに描いてものではないが、そんな社会の子どもたちを淡々と描いていているところに鋭い視線があるようだった。化石発見もセンセーショナルに描いているわけではない。とにかく全編にわたって、描写は暑くなることは無い。それが本書の魅力だ。

『砂』は1964年に発行された小説。ストラングラーズが1974年、セックス・ピストルズが1975年の結成だ。『砂』の少年たち世代がイギリスのパンクロックのシーンに登場することになる。


原題 Sand (by William Mayne 1964)
著者 ウィリアム・メイン
訳者 林克己
発行 岩波書店、1968年

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カテゴリー: 読書