ピアニストを撃て / フランソワ・トリュフォー監督

1959年フランス映画。トリフォー監督というと、一にも二にも『突然炎のごとく』が好きで、ある時期(ずっと昔だが)には繰り返し見ていた。『突然炎のごとく』に比べて、3年前『ピアニストを撃て』の方はだいぶんに地味な作品で、最初に見たときの印象が暗くて、それ以来数十年、見る事がなかった。で、年齢も十分にとった今見ての感想だけど、いい、すごくいい映画だった。

シャルリー(シャルル・アズナブール)はパリの庶民の集まるカフェでピアノを弾いている。カフェの給仕女レナ(マリー・デュポア)はシャルリーに思いを寄せている。ある日、シャルリーはレナに過去を明かす。本名をサロヤンといい、国際的に有名なクラシックのピアニストだった。彼が世に出るきっかけは妻の尽力によるものだった。興行主はシャルリーの妻の身体を条件に彼の売り出しを計ったのだ。大成功のうちにピアノリサイタルが終わったある夜。彼女は隠しきれずに過去のいきさつをシャルリーに告白する。シャルリーは驚きながらも、愛する妻を許す気でいるが、突然の告白に驚いて、ささいだが思いやりに欠ける行動を見せてしまう。妻はホテルの窓から投身自殺をしてしまう。クラシック界の国際的なスターのスキャンダルをマスコミははやしたてて、サロヤンは姿を消していたのだ。

これがパリの場末のカフェでピアノを弾くシャルリーだった。レナはそんなシャルリーを元のサロヤンに戻す事はできないか思案する。シャルリーもその気になって、二人の恋が深くなる。そんな時にギャングと付き合いのある兄貴が現れ、兄とギャングの抗争の中でレナは撃たれて死んでしまう。

シャルリーはいつものカフェに、いつものようにピアノは弾くために入店する。女将が今日入った給仕だと若い女性を紹介する。無表情、無言でピアノに向かうシャルリーは二度とサロヤンに戻ることはないに違いない。

ストーリーだけを見ると、50年代によくある悲恋ものと変わらない。しかし、トリフォーのヌーヴェルヴァーグの手法で完成された作品であることが、独自の映画世界を創り出している。

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カテゴリー: Movie