そして、みんなクレイジーになっていく―DJは世界のエンターテインメントを支配する神になった

そして、みんなクレイジーになっていく―DJは世界のエンターテインメントを支配する神になった本書の帯の「DJをやる前にこれを読め!」の文句がひときわ目を引く。ぼくはDJをやるつもりはないが読んだ。面白かった。しかし600ページを越える大作で、読むのに時間がかかった。先月はロラン・ガルニエの『エレクトロ・ショック』を読んだが、それはDJ自身による主観的なスタンスで書かれたDJやクラブ・カルチャーについての本だった。かなり熱い内容だった。本書は二人のライターによる客観的なDJの歴史となっている。客観的とはいえ、こちらも結構熱い。

DJとクラブについて余す所なく書き尽くした後、筆者たちはクラブの悲観的な結末と楽観的な結末を提示して終わる。前者のスタンスからこう書いている。

かつてはアンダーグラウンドのものだった我々の貴重なカルチャーは、強大なメインストリームの資本主義支配の下におかれたしまった。
クラブに行くことにまだ特別な意味があるのか? それともパブに行くのと同じだろうか?(p620)

本書の長い長い記述は、まさにかつてアンダーグラウンドのものだった、グラブ・カルチャーの誕生と発展、そして終焉であるのかもしれない。しかし、筆者たちは楽観的なスタンスで締めくくっている。

この先もアンダーグラウンドがなくなることはない。そしてそこは必ず、音楽を愛する人間に、仕事ではなく自分の生活の中心として音楽をとらえる人たちに、埋め尽くされるはずだ――たとえ子どもだましのポップがのさばっているように見えても、ほとんどのクラブが使命感を放棄し音楽ウェイターといいう安全な仕事に乗り換えたDJばかりに見えても、エネルギーのあるところに例外はあるのだ。(p622)

こうしたフロアーで、
そしてみんな、クレイジーになっていくんだ
と最後の最後に結ばれている。

本書のDJのはじまりはラジオのディスク・ジョッキーからだ。黒人のディスク・ジョッキーが人気を得る記述から、アメリカの音楽産業での黒人の果たした役割や歴史がよく分かる。前半はほとんど大衆音楽史だ。

現代DJの誕生としてのフランシス・グラッソが大きくページがさかれている。続いて、”ザ・ロフト”を作ったデヴィッド・マンキューゾ、”パラダイス・ガラージ”のラリー・レヴァンとつづく。クラブ・カルチャー史に重要な足跡を残したこの3人についてはドキュメンタリー映画『Maestro(マエストロ)』で、映像を見ることができる。映画では、理解できなかったことが本書で分かった。

ヒップ・ホップ、ハウス、テクノの発展については音楽的見地だけでなく、テクノロジーやDJのテクニックにも深く言及していて、ほんとにすごい本だ。

そして、みんなクレイジーになっていく―DJは世界のエンターテインメントを支配する神になった
Last Night A DJ Saved My Life
The history of the Disc Jockey
by Bill Brewster and Frank Broughton
(ビル・ブルースター/フランク・ブロートン)
翻訳 島田陽子
発行 プロデュース・センター出版局、2003年3月