2007年に入ってからこの種のウェブ解説書を積極的に読んでいる。佐々木氏の著書もこれが4冊目になる。その中でも本書が一番おもしろかった。いや、佐々木氏以外のウェブ解説書を含めても一番おもしろかったかもしれない。おもしろいというのは、現実の社会を理解するヒントがたくさんあった、という意味です。ウェブテクノロジーに精通することは、生活の糧を得るために必要なことですが、これは時間をかけて努力するしかない。それにくらべて、現実の社会の変化を理解することは難しい。体験を重ねて分かるものでもない。しかし、現実には人間関係の軋轢など、どーしたらいいものか・・・悩みがある。
本書がその悩みを解決してくれるわけではないが、軋轢の原因を理解させてくれたのではないかと思っている。本書はウェブニュース媒体「ホットワイアード」での著者の連載「ITジャーナル」をもとに全面改稿あり、新たに追加してできたものありと「まえがき」で説明されている。そのまえがきの最後に
驚くべきスピードで進化するインターネットの世界の一端を、この本によって知っていただければと思う。
と記されているが、本書はインターネットのテクノロジーを解説した本ではない。進化するインターネットで社会が、人間関係が変化していることについて書かれた本です。だから、タイトルの『ウェブ2.0は夢か現実か?』は内容にそぐわないかも知れない。ぼくはどちらかというとテクノロジーよりの内容かとタイトルから連想してしまった。
新聞などのオールドメディアとライブドア事件などの間に大きく開いた溝の説明には多くのページがさかれています。ここから市井の人間関係の軋轢を理解するヒントが得られました。
最後の方で著者は、心理学者の山岸俊男氏の『安心社会から信頼社会へ』を紹介しています。ここは特に印象に残りました。山岸氏はアメリカ人と日本人に他人の信頼度を計る実験をします。結果は日本よりもアメリカの方が、他人を信頼する率が高かった。このことで以下のように書いてあります。
アメリカは他人を信用しないルール社会であるのに対し、日本は深い相互の信頼に基づいた社会であると、みんなが何となく信じ込んできた。しかし実は、そうではなかったということなのだ。
その理由について山岸氏は、こう書いている。日本社会で人々が集団のために自己の利益を犠牲にするような行動をとるのは、人々が自分の利益よりも集団の利益を優先する心の性質をもっているからというよりは、人々が集団の利益に反するような行動を妨げるような社会のしくみ、とくに相互監視と相互規制のしくみが存在しているからという観点です。(p232)
なるほどなーです。これをインターネットのなかった20年前に読んでも、多分、なるほどと思ったでしょう。でも、リアリティの度合いが違うと思う。この違いがインターネット社会の進化によるものだと思います。
なお、「ホットワイアード」での著者の連載「ITジャーナル」に変わって著者の現在のブログは「ジャーナリストの視点」で続いているとあとがきにありました。
ウェブ2.0は夢か現実か?――テレビ・新聞を呑み込むネットの破壊力
著者 佐々木俊尚
発行 宝島社(宝島新書)、2006年8月
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