1960年代、バーニンガム初期の作品には、孤独とか人生の悲哀が色濃く表現されている。絵の色調も暗くて、暗い感情を適格に表現している。それが、70年代に入ると、絵は洗練され、色調も明るくなるが、根底にある孤独感は微妙に残っている。
本作品は孤独感がストレートに表現されていた時代の作品。一緒に生まれて兄弟たちは飼い主が見つかって、飼われていくのに、最後に残ったシンプと名付けられた子犬だけはもらい手がつかない。飼い主はとうとう捨ててしまう。
この子犬が最後はサーカス小屋のピエロに拾われて、人気者になるといるハッピーエンドなおはなし。イヌの描かれ方は後期の動物を彷彿とさせるが、まだ泥臭いところがある。でも、そのせいで迫力のある絵になっている。
バーニンガムの初期のストーリーには、ジプシーの旅芸人とかサーカスといった、非日常の世界が取り入れられている。後年は直接にはそういった題材はないが、心の中では、ジプシーやサーカスが引き継がれている。その意味でバーニンガムの絵本を楽しむには、ちょっと後期とは作風の違う、60年代の作品をも読むべきだと思った。
ずどんといっぱつ――すていぬシンプだいかつやく
原題 Cannonball Simp
著者 ジョン・バーニンガム((c) 1966 by John Burningham)
翻訳 渡辺茂男
発行 童話館、1995年3月