ブログスフィア(原題=Naked Conversations)/ ブログ運営者必読書

Unknownブログに関わっている人間には必読書だと思う。特に企業ブログに携わる人には本書はさけて通れないはずです。ぼくも大変な刺激を受けて読了しましたが、最初はとても読みにくかった。それは書名に翻弄されたと言っていいと思います。『ブログスフィア――アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち』が日本版の書名です。まず、「ブログスフィア」という何か新概念があって、その解説書と勘違いしたこと。実はそんなものはないんですね。クールに見える単語をタイトルに採用しただけのようです。結局、内容を表すタイトルになっていないので、クールではなかったと。

本書でブログスフィアは以下のように出てきます。
「『ブログスフィア』――すべてのブログによって構成されるコミュニティを指す言葉」(p5)
「ブログスフィア(ブログ界)」(p21)
こういった具合ですので、『ウェブログ』または『ブログ』とほとんど同義語です。ちなみに、Blogosphere(ブログスフィア)は Blog(ブログ)と Sphere(球面、天体、天球)の造語のようです。

読むにあたっては、あくまでも原題の「Naked Conversations=裸の会話」と副題「How Blogs Are Changing the Way Businesses Talk With Customers=ブログはカスタマーとのビジネストークをどのように変えるか」から内容を推察して読むべきです。

本書は以下のように書き始められています。
「中年の白人男どうしが裸でやる対話集かと思って本書を手にされたのなら、お門違いだ。」(p4)
二人の共著なんで、こんなジョークから始めたのでしょう。確かに対話集ではありませんが、ブログの中で運営者は裸になる必要性を再三に渡って力説しているのが本書です。具体的には、実名から始まって、内容にいたるまで、運営者(著者)はビジターの前にリアルな存在であることの必要性を説いています。リアルであることで成功した企業ブログと、リアルでなくて失敗した企業ブログが実名とともにたくさん紹介されています。

リアルでない例としてはプレスリリースを上げています。プレスリリースには公式記録としての必要性はあるもののブログがプレスリリース的になるのは最も陥りやすい失敗だと言っています。作為的なプログもリアルではないので、失敗するケースを紹介しています。だから、コピーライターやプランナーなど広告関係者にはリアルなブログを作るのは難しいという指摘には強い印象を受けました。

とはいえ、成功したブログがどれだけの実績を残しているのか、今はまだ誰にも確かなことは分かっていません。だから、本書では以下のようにも書かれています。
「革命的な変化というものはたいてい、ひっそりと忍び寄ってくるものではないか。蒸気機関車というものが追い越していくのを見た駅馬車の御者は、きっとそれが自分の職を脅かすとは思っていなかっただろう。羽ペンを持った僧侶たちも、グーテンベルグの印刷機の意味を十分に理解していなかっただろう。車輪を発明した者は、名前さえ残しておらず、おそらく必要に迫られて発明しただけだったのだろう。」(p40)

ぼくは僧侶でも御者でもないけれど、同じ経験をしています。写植業という業態がMacによって消失しました。写植とは印刷工程の一部で、弱小企業と多くのフリーランスによって写植業態が形成されていました。写植会社の顧客は印刷会社とデザイン会社などです。顧客から注文を受けて、希望通りの文字を印画紙に焼き付けて納品します。設備は、一台数百万の写植機と1書体数十万円のフォント(数十書体が必要)が主なものですが弱小企業やフリーランスには大きな負担となる投資額でした。それぞれのメーカーが自社の写植機と書体を製造販売していました。それは3つのメーカーの独占で、価格競争はありません。それが、Macの出現によって、写植の工程が必要なくなり、業態は瞬く間に消滅しました。

今から思うと瞬く間ですが、変化はひっそりと忍び寄ってきたものです。ぼくが20年前の1987年にMacを購入したときは、まだ業界が消滅するとは誰もが考えられない頃でした。ぼくはその年、独立して事務所を構えてちょうど10年目でした。事務所は努めてオープンな雰囲気にしていたので、同業者、グラフィックデザイナー、写植メーカーや事務機器の営業マンたちがだれかれとなく立ち寄る、いつも賑やかな情報交換の場となっていました。

それがMacを導入して夢中になると、出入りする多くの人たちからの冷笑を浴びる事になりました。Macはまだ仕事で使えるかどうか分からないレベルでしたが、とにかく高価だから冷笑は分からないわけではありません。でも、ぼくには意外でした。多くの人々はひっそりと忍びよる時代の変化を避けたかったのでしょう。この変化の流れは避けることも抵抗することもできないすごいパワーです。『ブログスフィア』の著者たちもそのパワーを伝えようとしているのだと思いました。

ブログスフィア――アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち
原題 Naked Conversations – How Blogs Are Changing the Way Businesses Talk With Customers
著者 ロバート・スコーブル+シェル・イスラエル((c) 2006 by Robert Scoble and Shel Israel
訳者 酒井泰介
発行 日経BP社、2006年7月

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カテゴリー: Web