これは絵本ではない。幻想小説にリスベート・ツヴェルガーの美しい挿絵がたくさん入った贅沢な本だ。小説の内容はなかり幻想性が高くて、読み始めたら止められなかった。作者のヴィルヘルム・ハウフは1802年に南ドイツのシュツットガルトに生まれて、25歳を目前に病死している。『鼻のこびと』は短い生涯に書いた数少ない作品。
美しい少年が野菜売りの母親を手伝っている。ある日老婆がやってきてたくさんのキャベツを買う。少年はキャベツを入れた袋を担いで老婆の屋敷に行く。老婆が袋から出したのは人の首だった・・・。こんな怖い話にずるずると引き込まれていく。老婆の屋敷でご馳走になったスープを飲み干すと同時に眠ってしまう。7年間にわたる夢を見たあとに目覚めて家路を急ぐが、7年後であることと自分がこびとに姿を変えられていることを知る。
7年間は夢ではなくて、現実であることを悟った主人公のヤーコプはその間の経験を生かして、国王の料理人となる。7年間、みっちりと老婆から料理を叩き込まれたのは夢ではなかったらしい。国王に気に入られる料理人になったこびとのヤーコプはある日、食材に生きたダチョウを買ってくる。その一羽が妖精によって姿を変えられた、魔術師の娘だったことからストーリーは急転回して一気に結末へと向かう。
ツヴェルガーの絵は後期の明るい色調。挿絵のおかげで物語の世界に容易に誘われる。
鼻のこびと
原題 DER ZWERG NASE(1993)
絵 リスベート・ツヴェルガー(Lisbeth Zwerger)
作 ヴィルヘルム・ハウフ
翻訳 池内 紀
発行 太平社、1996年6月
原題 DER ZWERG NASE(1993)