フランソワ・オゾン監督 / 焼け石に水

2000年フランス映画。フランソワ・オゾン監督の映画を見たのは『まぼろし』が最初だった。それはシャーロット・ランプリングを見たかったからだ。監督のことは何も知らなかったが、オゾン監督の感性に衝撃を受けた。しかし『まぼろし』は映画らしい映画で、そのときはまだオゾン監督をほとんど知らないという状態だった。次に見たのは、ミュージカルの『8人の女たち』。カトリーヌ・ドヌーブが歌って踊っているシーンに唖然とした。このあたりからオゾン監督の映画はちょっとすごい、と認識し始めた。それから長いことこの監督の映画を見ていなかったが、最近、短編映画『海をみる』と『サマードレス』を見て、その感性の素晴らしさにまいってしまった。そして、『焼け石に水』だ。まったく予備知識なしで、日曜日の静かな夜、カミさんと二人、テレビモニターの前に座った。同性愛の映画ではないか・・・。映画の中もだが、鑑賞者にも緊張が走る映画だ。

もう、ずいぶんと前のことだが、大阪西区の映画館シネ・ヌーヴォで「レズビアン&ゲイ映画祭」というのがあって、カミさんの当時の友だちが「やおい文学」(死語か?)ファンで、勧められたのか、前売り券を買わされたのか分からないが、とにかく二人で行った。場内は同性のカップルでいっぱいで、場違いな所に紛れ込んだような緊張を強いられたことを、この映画を見ながら思い出していた。

この『焼け石に水』はシリアスな中にコミカルなシーンもあって、淡々と時間が過ぎた。特にストーリーに詮索することなく、ただオゾン監督の乾いた感性を享受していればいい映画だと思う。といってもラストはちょっと衝撃的だった。主人公の青年フランツ(マリック・ジディ)が性転換した今は女性に、二人で生きていけないかと言いよられるが、自殺を計って毒を飲んだからもう手遅れだと言う。抱きかかえられて、母親に電話をする。「若いから天国に行けるはずだ・・・」と言っている。母親は「行ってらっしゃい」と言ったという。そして本当に死んでしまう。

映画は、中年男レオボルド(ベルナール・ジロドー)が青年フランツを連れて家の玄関に入ってくるところから始まる。ほとんどがこの二人で進行するが、途中からフランツの元婚約者とレオポルドの性転換をした前の相手を交えた4人による劇になる。映像はこの家から出ることはない。ほとんどが会話で進行する舞台のような映画だ。フランツの孤独が痛いような印象を残した。

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カテゴリー: Movie