学童向けの絵本だが、海賊についての専門書的な内容になっている。文章も多いが、大型本である特徴を生かして、絵をときに大きく大胆にレイアウトしてあったり、図鑑風な緻密なレイアウトがあったりと、大変に工夫された絵本です。フィクションだが、史実をおりまぜているらしい。息子が帆船で働きながら広い世界を見てほしい、という父親の希望から、少年のジェイクが帆船に乗り込むところから始まる。その商船が海賊船にのっとられることから、少年は海賊をも経験することになるという物語。
帆船の内部構造や道具の絵、船乗りのことなど、帆船全般の知識に重点を置いているが、本書の特徴は海賊船の歴史的背景、しいてはアメリカ合衆国がイギリスから独立を勝ち取ることになる契機といったことまでもカバーしている。単なる、乗り物図鑑的絵本で終わらないところが本書のすごいところです。
主人公の少年は、18世紀、独立前のサウスカロライナのアメリカ人。イギリスはアメリカの東海岸沿いに11ヵ所の植民地を持っていて、サウスカロライナはその南端にあって、隣接するスペイン植民地の開拓者と戦っている。当時のイギリスはスペインとその同盟国であるフランスと交戦状態にあったせいです。開拓民はアメリカ先住民やスペイン人と闘いながらも栄えていく。イギリスはアメリカ植民地の貿易に税金を課すと同時に、船舶の制限をする。ここに海賊船が登場する素地があったんですね。
ぼくも少年の頃は海賊船の映画をよく見ていた。海賊船の映画の海を舞台にした独特の雰囲気をいまだに忘れられない。だから本書の絵に惹かれる度合いが強い。ま、単純に勧善懲悪の尺度で映画を見ていたわけですが、本書を読むと、背景にイギリス、スペイン、フランス、そしてキリスト教の宗派対立のからんだ、とても複雑な時代背景があったことを少しは知ることがでた。
本書によって、帆船や海賊船の時代背景が分かってくると、ルネ・ギヨの児童文学の傑作『一角獣の秘密』をもう一度読みたくなった。こちらは、フランスの西海岸に面した港町の領主の森番の息子が主人公。彼は同い年の領主の娘の身代わりとして、領主の所有する帆船に乗り込み、冒険をする話。娘は他に跡継ぎがいないせいで、祖父の老伯爵に対して、娘である自分とは別に実在しない双子の兄を演じていた。
海賊日誌 少年ジェイク,帆船に乗る
文 リチャード・プラット
絵 クリス・リデル
訳 長友恵子
発行 岩波書店、2003年9月
原題 Pirate Diary, First published 2001, London