絵本の古典だが、現代にも生きる大傑作だと思う。ミシュカという小熊のぬいぐるみが主人公。ミシュカのご主人はいばりやで、怒りんぼうの女の子。それが嫌でミシュカは家出をして、森を歩きながら自由な空気を吸い、もうぬいぐるみとして生きるのは止めようと決意する。森の中でミシュカはクリスマスのプレゼントを満載したそりを引くトナカイに出会う。サンタクロースがいないので、プレゼント配りを手伝ってくれないかと頼まれてミシュカは引き受ける。ストーリーはここまでにしておく。とても、ジーンと胸に迫る結末が控えているのだ。
ぼくは、ジェラール・フランカンの『つきにでかけたおんなのこ』を読んで、その作者に興味を抱いて、本書『ミシュカ』を知った。『つきにでかけたおんなのこ』は絵も作もフランカンで、話もいいが絵も気に入っていた。しかし、本書の絵のタッチはそれとは、あまりに違うので疑問に思った。
その疑問は、本書の訳者の末松氷海子氏による「あとがき」を読んで解決した。フランスでは子ども向けの本を専門とするペール・カストール文庫が60年も続いているという。本書はその文庫の1冊だが、話は少し込み入っている。初期のカストール文庫時代、30冊ちかい絵本を残したロジャンコフスキーはマリイ・コルモンのストーリーで1941年に最初の『ミシュカ』の絵を描いた。当時、フランスはドイツの占領下にあり、ロジャンスキーは移り住んだアメリカで描いた。本書がほのぼのとした中に物悲しさが漂っているのは当時の状況のせいではないか、と訳者は書いている。
1991年の再版にあたって、オリジナルではなくて、ジェラール・フランカンの絵による新たな『ミシュカ』を出版した。しかし、「フランカンの『ミシュカ』は、ロジャンコフスキー絵『ミシュカ』(1941年刊)をもとに画かれました。」と注釈にあるように模写であるらしい。訳者も理由は分からない、と記している。これで、本書の絵のタッチの古い理由が了解できた。しかし、悪い絵ではない。ストーリーに合わせるなら、このほのぼのとしたタッチでしかないように思えてくる。しかし、お話は、ほんとうに大傑作だ。ちょっとない。
ミシュカ
作 マリイ・コルモン
絵 ジェラール・フランカン
訳 末松氷海子
発行 セーラー出版、1993年11月