ピクセルへの案内書 永原康史 著 / デザイン・ウィズ・コンピュータ[改訂版]

4844356844.09.MZZZZZZZ読後、1ピクセルの極小の正方形がとても「いとおしく」なった。

本書の初版は1999年で、書店に平積みされていたことをよく覚えている。手に取って、ぺらぺらとページをめっくった。デザイナー志望の学生を対象にした基礎講座だと分かって、読む必要はないと判断した。その頃、ぼくはDTPのオペレーターで生活費を稼ぎながら、Webデザインの習得に格闘していた。基礎講座ではなくて、すぐに結果の分かる解説書ばかりを買っていた。先日、いつも書店にある本書を手に取ったら、2003年の改訂版であることを知った。出版されては、すぐに陳腐化するコンピュータ関連書の中にあって、本書の息の長さに驚いて今度は読んだ。

読後、ピクセルの世界に親しみを感じて、その快感に浸った。著者は「まえがき」に「デザインを始める前の人たちに読んでもらうことを主眼とした、いわば『デザイン以前の本』です。」と記しているが、ぼくのようにアナログ・デザインの環境下に長く生きてきた者にとっても必読書だと感じた。アナログからデジタルへの移行は簡単ではない。コンピュータを道具にして仕事をしたとしても、アナログ感覚の延長に留まってしまう。デジタル感覚は遠い彼方かもしれないし、すぐ隣にあるのかもしれない。本書によって、隣に引き寄せることができるかもしれない。

19世紀のフランスの詩人マラルメの詩の組版を例にレイアウトについて考え、17世紀の木阿弥と俵屋宗達による和歌書などを例にインターフェースについて考えるということを本書ではやっている。読み進むと、それらの過去の遺産をデジタルのフィルターを通して眺めていることに気づかされる。そうすると、それらがとても親しみのある作品として、アナログの時代とは違って見えてくる。そう・・・快感の一例です。

著者は「改訂版のためのあとがき」で次のように記している。とても重要なことだと思うので長いけれど引用してしまう。

「99年当時はまだまだコンピュータはデザインにとって道具だと考えられていた。しかし私自身は、デザイン作業にコンピュータを使いはじめた当初から、デジタルは環境であり素材であるという認識で取り組んできた。当然本書もその立場から書かれており、イントロダクションにおいてそれを明確にしている。
『素材としてのデジタル環境』という考え方は、なかなか理解を得ることができなかったが、最近、デジタル・マテリアルとコンピュータの関係を語る上でのキーワードにもなっている。
デジタルを素材と考えることについては批判的な意見もある。曰く、魅力的な考え方ではあるが、異物だらけの粘土に手を突っ込むとけがをしてしまう。確かにそのとおりかもしれない。しかし、多少の傷をこしらえてもこの土を練ってみたいと思う。焼いた茶碗で一服できるならそれもいいのではないか。」(p152)

そう、異物でいっぱいの粘土だからケガは避けられない。これはぼくの実感だ。いま、ドロー系ソフトや画像処理ソフトだけに頼ったデザインから脱却しようとして必死だ。ビジュアル・デザイン制作にあたって、それらのソフトと同等に、エディターに打ち込んだプログラムによるデザインに慣れようとして必死の状態だ。ぼくの場合、いつ、茶碗が焼けて一服できるのか、保証はないのだが・・・。

<strong>デザイン・ウィズ・コンピュータ[改訂版]</strong>
著者 永原康史
発行 ウムディエヌコーポレーション(初版1999年4月、第2版2003年4月)<br /><br />《関連記事》<br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=1535″>[新デザインガイド]日本語のデザイン / 永原康史著の日本語文字の歴史</a><br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=981″>ピクセルへの案内書 永原康史 著 / デザイン・ウィズ・コンピュータ[改訂版]</a><br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=678″>永原康史/タイポグラフィーとプログラミング(ウェブデザイング2006年7月号) </a><br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=452″>ウェブデザイニング4月号の永原康史氏のエッセー「デザインの超高度資本主義」</a><br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=366″>HyperCardスタックの思い出 永原康史/The Art of Stereographics</a><br /><a href=”http://page.sgy3.com/index.php?ID=232″>Webは一人でトータルに扱える唯一の領域=永原康史/WebDesigning12月号 </a>

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カテゴリー: Design