イタリアはベネチア(ベニス)が舞台のあったかい喜劇小説。時代はちょっと古い。魔女がまだ活躍してた頃だけど、大昔じゃない。ベネチアのユダヤ人商人が活躍してた頃。そう、キリスト教徒のねたみを買ってたし、ユダヤ人はゲットーに住んでいた。ゲットーには門があって、夜は締まる。一人のユダヤ人商人が門限に遅れて、友人のキリスト教徒の商人宅に泊めてもらう。冷える晩で、二人はホット・ワインをやっているところへ、魔女が乗り物のほうきの調子が悪くて、ふわり庭に降りて来る。
「あなたは誰です」って、家の主人。「魔女だよ」。「魔女なんているはずがない」。でも、熱いワインでもいかがですか、となって3人で飲み明かす。この魔女が酔っぱらったおかげで、ベネチア人にしっぽが生えるという大異変が起こるというおはなし。二人の商人の息子二人も友だちで、その二人それぞれの守護天使も友だち同士。その一人の守護天使がお月さまに恋してる。魔女もお月さまに恋してる。
しっぽが生えて、喜ぶわけはないけど、それはファッションの土地柄。しっぽ用のリボンだの香水だの、商売人はめざとい。そんなんで、フランスを巻き込んだ陰謀がうずまいたりとか、ユダヤ人差別が下地にあったりとか、ノー天気に笑って読んでいるわけにもいかないけど、教育的な小説ではない。
著者は1954年ベネチア生まれ。1989年の本書が初めての児童文学。汐文社の「イタリアからのおくりもの――5つのちいさなファンタジア」の中の一冊。
●イタリアからのおくりもの――5つのちいさなファンタジア
木の上の家 / ビアンカ・ピッツォルノ
空に浮かんだ大きなケーキ / ジャンニ・ロダーリ
ベネチア人にしっぽがはえた日 / アンドレア・モレジーニ(本書)
ドロドロ戦争 / ベアロリーチェ・マジーニ
ロベルト・ピウミーニ / アマチェム星のセーメ
ベネチア人にしっぽがはえた日
著者 アンドレア・モレジーニ
翻訳 長野徹
絵 小林ゆき子
発行 汐文社、2006年8月