7月6日、ツアー最終日、梅田のロイヤルホース。メンバーは
ニューマン・テイラー・ベイカー[Drums&Perc.]
行本清喜、Tp&etc.
古谷光広、Sax
白山貴史、G
谷中秀治、B
ニューヨークの現役のジャズミュージシャンってほとんど無知なんで、ベイカーさんも知らない。マッコイ・タイナー、ジョー・ヘンダーソン、ルー・ドナルドソンなど数多くのトップ・ミュージシャンと仕事をしてきた、と紹介されていた。こんなドラムは初めて聞いた。弱音での演奏時間が長いので、音の強弱の幅がムチャ広い。打楽器なのにメロディが聞こえる。フロント陣へのサポートがしっかりしているなど素人目にも分かる。聞いてほんとに良かった。
この日のライブに出かけたのはトランぺッターの行本清喜さんを聞くためだった。2年程前、大阪にドン・チェリーの弟子のジャズマンがいることを知り、いつか聞きたいと思っていた。いつか聞けるだろうと思っていただけで、積極的にライブ情報をあさっていたわけでないが、ひょうんなことから機会が巡ってきた。ドン・チェリーはフリー・ジャズのミュージシャンではほとんど最初にファンになった思い入れのあるアーティストだった。
最初のファンキーな曲「Watermelon Man」ですぐにモダン・ジャズに没入した。このメンバーはすごいと思った。続いて「My Favorite Things」。コルトレーンの演奏でイヤというほど聞いている曲だが好き。行本さんは南米の楽器だという縦笛をプレイ。古谷さんのテナーとのアンサンブルがむちゃくちゃにいい。コルトレーンのようにフリーな「My Favorite Things」じゃないが、フツーのそれでもない。妖しい「My Favorite Things」だった。
次いで、1stの最後はカリブの民謡だとMCがあったので、お客さんサービスだと思ったらまちがい。テーマが終わると、けっこうフリーなプレイで嬉しくなった。
2ndはなんたって、3曲目のオーネット・コールマンの「Lonely Woman」(だと思う)に興奮しまくり。なので、1曲目がどんなだった全く思い出せない。2曲目はドラムをフィーチャーして踊れる楽しいナンバー。その後にたっぷりと間合いをおいて、問題の「Lonely Woman」だった。ロイヤルホースだし、まさかこんなフリー・ジャズを聞けるとは思っていなかったので涙が出るほど感激した。
長いことフリー・ジャズを聞いていない。おそらく30年振りか。70年代、リアルタイムに聞いていたフリー・ジャズと比べるなら洗練された演奏だと思った。そして緻密と濃厚。00年代にフリー・ジャズをプレイする意味をこの演奏で感じた。けっして懐古的なプレイじゃないってこと。それにしても長い長いプレイだった。うれしくてたまらなかった。
アンコールは「聖者の行進」。行本さんが歌っている。mixiの日記では連日のツアーのせいでトランペットから音が出なくなった。それでマイクを握ったと書いていた。でも、いい声だった。ほんとはルイ・アームストロングの弟子になりたかったんじゃないかと思った・・・もちろん冗談だが。
《追記》
mixiで行本さんがぼくのコメントに答えてくれた一部を転載します。コールマンの「Lonly Woman」の演奏のことです。
ベース
ドラム
トランペット
サックス
ギター
がそれぞれのパルスを感じながら調性もテンポも
各自の感性で演奏される
「ハーモラディック」という
オーネットが確立した奏法です
続けて、(演奏中の)テンションは高いですよ、と書いている。
オーネット・コールマンの59年録音の『ジャズ来るべきもの』の1曲目が「Lonly Woman」。ぼくは10代の終わり頃にこれをジャズ喫茶でリクエストして聞いて、あまりのテンションの高さにびっくりした。その後、ジャクソン・ボロックの絵で有名な『Free Jazz』はLPを買って長いこと大事にしていたが、ぼくはコルトレーンとかアイラーのスピリチャルなフリー・ジャズに傾倒していくなかで、コールマンは聞かなくなって行った。今回、ほとんど40年振りにコールマンの「Lonly Woman」を聞き感慨にふけっている。(2008.7.11)