1971年イタリア映画。おもしろい、すごくおもしろく見ていた。ただ、映画館の封切りで見たときは退屈だったことを覚えている。20代だった。カップルで行った。大きな映画館なのに、他に数人が見ているだけで、極端にすいていた。盛り上がりのない映画だし、すいてるしで、陰気な気分になったものだ。しかし、20代で分かる内容じゃない・・・と、今日見ていて、つくづく思った。何度も見て、歳を重ねる度に理解が深くなる映画だと思う。ま、小説でもそうだけど、夏目漱石とか川端康成など、歳を食わなきゃ分かるはずがない。そしたら、歳をとるまで、見たり、読んだりするのを待ったらいいかといえば、そういうわけにもいかない。
『ベニスに死す』は初老の音楽家が避暑地のベニスに滞在中の映画だ。彼は一人の美少年を見初めてしまって、苦悶の日々を過ごしながら、最後は持病が悪化して死んでしまう。『若者のすべて』は貧困層の悲劇を扱っているので、見ていて身につまされたが、本作は上流階級の話なので、主人公の苦悶を理解できても、身につまされるということはない。そもそも、ヴィスコンティの視点には上流階級への批判精神があるせいで、本作の主人公やルートヴィヒの悲劇的死に対して同情心をあおるなんてことはないのだ。と言って、甘美な退廃をもてあそんでいる風でもない。醒めた目でヨーロッパの退廃を見つめているだけ、といった感じだ。
それにしても、美少年タジオを演じた、ビョルン・アンドレセンの美しいことといったらない。こっちも歳をとるほどに彼の美しさの度合いが増していく・・・。主役のダーク・ボガードは好きになれない俳優だけど、印象に残る人だ。ヴィスコンティの作品には他にも出ているが、本作の他には、ジョセフ・ロージー監督の『召使』が強く印象に残っている。