アンドリュー・クレメンツ著、田中 奈津子訳(講談社文学の扉、2012年2月発行、原作2009年)
非常におもしろい小説だった。物語の展開が気になって、どんどん読んでしまった。ほんとにうまいことストーリーを組み立てていると思う。著者のアンドリュー・クレメンツの作品はこれが初めて。他の作品も読みたくなる。
主人公はアメリカ合衆国イリノイ州の穀倉地帯の町に住むアビーという12才の少女。父親は畑を持っていてトウモロコシを作っている。見渡すかぎり真っ平らな土地にアビーは退屈しきっている。そのせいか学校の体育館にある設備でフリークライミングに熱中している。
ある日、学校で担任の教師から中学校への進学は非常に難しいと宣告される。つまり落第。フリークライミングや外で遊ぶことに熱中しすぎて、学校の成績がさんざんな状態となっていた。小学校を卒業するには、残りの期間での学力アップ、それと特別課題をこなすことが必要になった。
いくつかある特別課題をくじ引きのように選択したのは外国の友だちと文通することだった。先生がお願いできる3カ国の中からアビーが選んだのは山がたくさんあるだけの理由でアフガニスタンだった。
アメリカの少女からの手紙はアフガニスタンの首都カブールから約120キロはなれたバハーランという村に届く。村の小学校の先生は、文通相手には英語はもちろん文章力も一番の少年サディードにやらせたい。しかし、村の長老や有力者の集まった会議で男女の文通は許されない。サディードの2歳下の妹アミーラを文通相手として彼が補佐することで決まる。
サディードの父親は村の市場で小麦粉やレンズ豆、米などを売る店を開いている。サディードはその店の手伝いをしている賢くて意思の強い少年。アビーからの初めての手紙では何の反応もなかったサディードだが、文通を重ねながら、サディードとアビーはお互いに相手に対して強く興味を抱くようにる。文通は両方とも学校で発表することになっているというのに、いつしか自分の気持ちを書きすぎるようになっていく。
しかし、文通は突然に終了する。アビーが課題を報告する掲示板に貼ったアフガニスタンの国旗に学校の生徒の一人が反発するなどがある一方で、アフガニスタンではもっと悪いことが起こる。サディードがタリバンを思わせる兵士にアメリカ国旗の切手を貼った手紙を見つかり、怒りをかう。こんなことで文通は大人たちによって禁止される。アミーラから文通を続けることはできないとの簡単な手紙を最後に終わる。
もちろん、小説はこれで終わらない。サディードからの最後の手紙を心待ちにするアビーだったが、それもすっかりあきらめていた頃の卒業行事の日、アフガニスタンからの封書がアビーの学校に届く。
サディードからの最後の手紙を読んだアビーは体育館に忍び込み、フリークライミングをするやむにやまれない気持ちのところはとても感動的だ。
作中、サディードが読んだ英語の本が紹介されている。その中に『ひとりぼっちの不時着』があった。『少年キム』というもう少し難しいものも読んでいるとある。アビーは好きな小説として『ふたりはともだち』を手紙に書いている。検索したがこのタイトルでは分からなかった。しかし、作者のアンドリュー・クレメンツの著書である可能性がありそうだ。
『ひとりぼっちの不時着』はゲイリー・ポールセンの小説でこれもかなりいい。このブログで紹介している。
「ひとりぼっちの不時着 / ゲイリー・ポールセン著の児童書」。