『クラウドコンピューティングの幻想』を読む

エリック・松永 著(技術評論社、2009年4月発行)

クラウドコンピューティングの幻想
エリック・松永
技術評論社
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ぼくの知らない世界だが、ITベンダーと呼ばれる人々がクラウドコンピューティングについて、エンドユーザーやユーザー企業のことを考えずに、キャッチャーなIT技術の話を表面的に分類し、無限ループ状態で論じるだけの禅問答があるらしい。とはまえがきに書いてあるが、このような状況を分かったうえで読む本のようだ。

まえがきではさらに、本書を音楽にたとえて、万人向けの無難でお洒落なジャズのオムニバス版ではなくて、クラウドコンピューティングという1つのテーマを中心に展開されるフリージャズのインプロビゼーション主体のライブアルバムだと書いてある。全体を読み終わってから再びここを読むとなるほどと思う。

ビジネスコンサルティングの視点からクラウドコンピューティングを解説したものだが、ソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダー、そしてシステムインテグレータ、これらのユーザーである企業を対象とした話なんで、個人や町のホームページ制作者レベルの内容じゃない。

だから、最初はとっつきにくかったけど、読み進むうちにおもしろくなって、クラウドコンピューティングについてなんとなくイメージがつかめた。実際、つかめてどーする(笑)なんだけど。本書の最後で、クラウドコンピューティングは、企業システムにとっては何も特別なことではない。企業のコンピュータシステムの進化の過程の1つに過ぎないこと。クラウドコンピューティングがビジネスを変えるのではなく、変化するビジネスをクラウドコンピューティングが支える、などという結論を読むと、技術論に片寄った禅問答への回答かなと思った。

著者はコンサルタントなので、その視点から日本企業を分析しているが、おもしろいというか、いい知識を得た気持ちになった。プロジェクトの進行にブレがあるので、現場のエンジニアは修正に追われることになる。日本のエンジニアには高いスキルと同時に忍耐が必要らしい。グーグルやアマゾンなど、クラウドコンピューティングを実践している企業の創造的エンジニアにこの忍耐を求めることができるだろうか、と言っている。

欧米型のパッケージソフトウェアについてもおもしろいことが書いてあった。ベンダーはユーザー企業のわがままに付き合ってソフトをカスタマイズをしなければならないらしい。この状況のたとえがおもしろい。「それはまるでマクドナルドに行って松阪牛と帝国ホテルのパン、国産無農薬野菜でできたビッグマックを特別注文して、ファストフードのクセに安くないと文句を言うような奇妙な行為と同じなのです」(p170)

《著者のサイト》
エリック松永の道場破り”:ITmedia オルタナティブ・ブログ
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