ニューロマンサー / ウィリアム・ギブスン著サイバーパンクSF

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)ウィリアム・ギブスン著 黒丸尚訳(早川書房、1986年発行)
“Neuromancer” Copyright 1984 by William Gibson

20年前にパソコンを買ってから小説を読むことが減った。ほぼ10年前にウェブ制作をするようになってからは、小説をほとんど読まなくなった。長編を読み切る時間が取れず、短時間で読める児童小説とか絵本を読んでいた。20日前にハウスミュージックのDJスピンクルズ(DJ SPRINKLES a.k.a TERRE THAEMLITZ)のプレイでフロアーで踊っているとき、何年も読んでいなかった『ニューロマンサー』を無性に読みたい衝動にかられて、帰ってから読み出した。そして、やっと読み切った。

本書はサイバースペース(電脳空間)を舞台にした幻想的な小説だ。本書以降これらのSF小説はサイバーパンクと呼ばれる。特殊な電極で脳とコンピュータ端末を接続、全世界のネットのデータを頭の中で視覚化した世界がサイバースペースだ。この辺は、士郎正宗のコミック『攻殻機動隊』(1991年)を見ているので、イメージの具体化に役立った。

小説の主人公ケイスは共感覚幻想の中に、肉体を離脱した意識を投じる特注サイバースペースに没入して盗人として活躍するクラッカーだ。

港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。

と、日本のチバ(千葉)から小説はスタートする。チバ・シティは臓器移植や神経接合、マイクロバイオ工学の最先端テクノロジーが集積した無国籍的な都市。チバの闇医療はテクノ犯罪者を吸い寄せている。ケイスにはチバの闇医療に頼る理由があった。チバ・シティの描写はリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982年)に酷似している。

ケイスはチバでクライアントを得て、フリーサイド(自由界)と呼ばれる植民島の一つ、ザイオンに向かう。本書の3分の2は、宇宙空間に浮いているコロニー、ザイオンが舞台だ。ザイオンを創設したのはラスタファリアン崇拝者たちで、ザイオンではダブのビートが響いている。

だからといって、この小説のBGMがレゲエやダブだとは思わない。ディープなハウスやミニマルテクノが合っていると思う。ケイスたちの仕事場は肉体を離脱したサイバースペース。そう、浮遊する知覚に目眩する感覚が本書の魅力だと思う。ここは無機的なサウンドこそが合っている。

ぼくが本書を初めて読んだのは1990年頃だった。全く理解できなかったが、本書の不思議な魅力の虜になって、以来、何度か繰り返し読むうちに少しづつ理解が深まった。初めてのパソコンを買ったのは本書に出会う数年前の87年だった。当時はLanでもなければ、ネットももちろん知らなかった。今は本書を理解できる条件が揃い、感覚的によりストーリーに没入できるようになった。

投稿日:
カテゴリー: 読書