ある女の存在証明 / ミケランジェロ・アントニオーニ監督

1982年イタリア映画。アントニオーニ監督は『情事』(1960年)、『夜』(1961年)、『太陽はひとりぼっち』(1962年)の3部作が特に有名だが、この『ある女の存在証明』はそれ以来の傑作だと思う。しかし、ストーリーを追うのが難しい映画だった。10年程前にテレビ放映で見たときはほとんど理解できなかった。今回はDVDで間を置いて2回見たせいで何とか理解できたと思う。

中年の映画監督ニコロ(トマス・ミリアン)は離婚している。たぶん、妻の方が愛想をつかせたに違いない。貴族出の奔放な若い女性マーヴィ(ダニエラ・シルヴェリオ)と付き合い、激しく愛し合っているがマーヴィは姿を消してしまう。マーヴィはニコロとの精神的共有を築くことができないでいら立ち、エキセントリックな振る舞いに出たりするが、ニコロはそれを理解できない。というか分かろうとしない。ただ、ニコロは次の女性と付き合いだしても、マーヴィを忘れられないでいる。しかし、マーヴィを捜すうちに彼女は同性を愛していることを知って、ニコラはふっきれたのだろうか?

次の女性というのは、アヴァンギャルド風な演劇の女優をしているイダ(クリスティーヌ・ボワッソン)。とても個性的な女性で、身体の動きが小気味良くてついつい見惚れてしまった。ニコロがマーヴィを連れて行った彼の別荘も古い家で良かったが、イダが一人で暮らす小さな家もまた大変に古いもので素晴らしい。

ニコロは新作映画の女優のイメージを固めているが、なかなかうまく進まない。書斎に大きなイメージ・ボードを立てて、雑誌などから切り取った女性の顔を貼付けている。その中心にあるのは新聞から切り抜いた小さな写真の男と女だ。イダにそれはテロリストの夫婦だと説明する。

イダは男優が急病になったので数日の休みができた。ニコロはイダを冬のベニスに誘う。ベニスのホテルでイダは検査結果の電話を受け、妊娠していることを知る。ニコロの前に付き合っていた仲の良い男の子どもだと言う。ホテルのロビーの運河に面したところでの二人の会話がとてもいい。ガラス戸の向こうにはカモメが乱舞している。

イダ自身は現実を受け止めるが、現実と真正面に向き合おうとしないニコロとはやっていけないと悟る。その会話だ。

あなたは私の恋、私の祝日、私のお正月、私のコカイン、私のいろいろなもの、でも私の宿命ではない。私の宿命はある若者。
覚えてる? 2人のテロリストの写真、2人は何でも一緒だ。極端な思想も地下活動も。だから仲がよかった。私達(ニコロと付き合う前の彼とイダ)も仲がいいの。
自分の子じゃなくても父親になれる?

とイダ。無言のニコロ。
3部作で描かれた男たちと同様にニコロもまた現実から遊離している。

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