書名のタイトルは英語だが翻訳書。20世紀のデザインを現代に生かすために、その歴史的ムーブメントとスタイルを項目別に解説している。デザインの歴史的用語を使用する場合は辞書として役立つ。
ムーブメントはモダニズム、未来派、ダダイズム、構成主義、シュールレアリスム、ポストモダニズムなど、スタイルはアール・ヌーヴォー、アール・デコ、バウハウス、スイス派、ポップアート、ミニマリズムなどで両方合わせて40項目になる。それらがほぼ年代順に取り上げられている。それぞれの項目について、建築、工業製品、家具、絵画、ポスター、さらにはタイプフェースがグラフィカルに紹介されている美しい本だ。
ムーブメントやスタイルの歴史的解説は読んでいるだけでも面白い。例えばダダイズムの説明だが、
英国では、1970年代中頃にパンクと並んでダダの風潮が出てきており、例えばジェイミー・リードのグラフィック作品にその傾向が見られる。ドイツでは、トーマス・ナイジェルとアレックス・ブランチェックが、テクノ・ミュージックのデザインとデジタル世界にダダイスト的奔放さを持ち込んだ。反逆精神と探究心とを基本姿勢とするダダイズムは、20世紀初頭に影響力を持っていたムーブメントにとどまらず、現在そして未来のモデルとしても位置づけられる。
という具合に歴史的解説に留まらず現代との繋がりを重視したものとなっている。工業製品の写真による紹介でも「近年の作品への応用」と題して多数の製品を取り上げている。ここにアップル社の製品が数多く登場する。デザインスタイル、バウハウスの応用として、最初の iMac。同じく流線型は 現在も同じデザインの Power Mac G5。ハイテクは2000年の表面カバーが透明の Apple Pro Mouse。ミニマリズムは2005年の iPod shuffle といった具合だ。
いくつかの重要なタイプフェースも本書からその歴史的位置づけを知ることができた。スイス派のユニバース(1957年)やヘルベチカ(1957年)は有名だが、モダニズムから1927年のフーツラ、ドイツ工作連盟からカーベル(1928年)。コンテンポラリー・スタイルからユーロスタイル(1952年)。ポストモダニズムからパラティーノ(1948年)とオプティマ(1950年)などがある。他にもタイプフェースは取り上げられているが、ここにあげた例は常用される書体だ。
本文以外では、冒頭にムーブメントとスタイルのグラフィカルな歴史年表。同じくデザイン、デザイナー、出来事。巻末には作品を見ることのできる美術館などの一覧。これにはURLも掲載されている。索引も充実しているので、多目的な辞書として重宝する。
WHAT IS MODERN DESIGN?
著者 Lakshmi Bhaskaran
翻訳 山田聡子、株式会社バベル
2006年4月20日 ビー・エヌ・エヌ新社 発行