本書でウェブについて書かれていることはすごい刺激的で、そのうえ将来への希望が持てる内容でした。読んで、未来に対して楽観的になれる、これってとても気持ちが良かった。
これから始まる「本当の大変化」は、着実な技術革新を伴いながら、長い時間かけて緩やかに起こるものである。短兵急ではない本質的な変化だからこそ逆に、ゆっくりとだが確実に社会を変えていく。「気づいたときには、色々なことがもう大きく変わっていた」といずれ振り返ることになるだろう。(p18)
本書でいう大変化は、情報技術(IT)の変化ではなく、情報そのものに関する革命的な変化を言っている。誰もが「情報スーパーハイウェイ」という「物理的なITインフラ」の構築を考えていたのが90年代。21世紀が幕を開けたとき、見えていたのは、ITインフラじゃなくて、I(情報)インフラだった。そこで生じるのが「情報そのものに関する革命的変化」というわけ。
大組織中心の高度成長型モデルの立場からは「物理的なITインフラの発達」という視点でしか見えない。情報そのものに関する革命的な変化は、視点の元が組織から個人へ移らなければ見えてこない。情報の革命的変化には組織から個人への変化が内包されているから、革命的と表現されているんだと思う。
本書は大組織にいながら、またネットという向こう側の世界を知らない人を対象に、ウェブの変化を理解してもらうことを意図して書かれた本です。ぼく自身はネットは体験しなければ分からないと思っているので、本書をおもしろく読めるのは、結局はネットという向こう側に居る人たちばかりではないかと想像してしまう。
ぼく自身の狭い体験から最近思うことは、ネットという向こう側に行けるか行けないか(つまりブログを書けるか書けないか)はテクノロジーの問題ではなくて、組織に重心を置いているか、個人に重心を置いているかの違いだと感じている。組織に重心のある人は向こうに行きにくい。組織とは会社だけでなくて、血縁や地縁も含みます。
ネットが批判の対象になるのは、こうした組織の破壊者とみられるからだと思う。でもネットという向こう側にはまだまだそんな力はないと思う。著者が言うように、長い時間をかけて緩やかに起こること。さらには、短兵急ではない本質的な変化です。だから、変化が現実となったときには、組織や個人に関する考え方にも大きな変化があるはず。それだけ長い時間が必要なことをまず理解しておくべきだと思った。
重要なことは、その長い時間、変化は遅滞することなく着実に進行するということだと思います。ぼくはそこにこそ未来に希望を持てる。なぜって、今までは組織重視で社会がやってきた。やっとウェブ進化の先に個人重視が見えてきたからです。ぼくの20歳代から40歳代は日本経済の高度成長期で、その恩恵を少なからず受けてきた。しかしそれは社会的インフラの発展に象徴されるように、物質的な恩恵で、個人に立ち返るなら窮屈でもあったわけです。ネットは単に新しいというものではなくて、個人に立ち返るきっかけとなるという意味でこそ重要だと感じている。本書はそんな感覚を応援してくれるものです。
《読後に読んだ、本書に関する関連サイト》
梅田望夫氏の「ウェブ進化論」を読んで:江島健太郎
【梅田望夫がブロガーと語る「ウェブ進化論」】ネット社会で既存メディアはどう変化するのか
近況 – 梅田望夫がブロガーと語る「ウェブ進化論」ログ
[R30]: 書評「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」・上
《本ブログのほかの梅田望夫著作感想文》
シリコンバレーは私をどう変えたか / 梅田望夫 著
ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる
著者 梅田望夫
発行 筑摩書房〔ちくま新書583〕、2006年2月