氷の海とアザラシのランプ カールーク号北極探検記

1913年、カナダの北極探検隊をのせた捕鯨船が氷の海にとじこめられてしまう。この実際におきた出来事をジャクリーン・ブリッグズ・マーティが子ども向けの物語にして、ベス・クロムスが絵を描いて、できあがった絵本だ。この探検隊には二人の幼い娘をもった北方民族のイヌピアク族の猟師の一家が参加している。物語はこの家族を中心に描かれている。人間のほかには40頭のそりイヌと船大工の飼っている一匹の黒猫がいる。この黒猫は後々、イヌピアクの家族に世話されるのだが、絵のあらゆる場面に登場し、ネコ好きには大変に魅力的な存在となっている。人間達が苦境のなかにあっても一匹の黒猫のために労をいわない様がとてもいい。クロムスの絵はスクラッチボードと水彩絵の具を用いたものと解説されているが、版画のようなタッチで独特の雰囲気を作り出している。

本書によると、ベス・クロムス自身、北方民族出身でイムピアクの家族の生活や道具が精緻に描かれている。タイトルにもなっているアザラシのランプとは、石を削った容器にアザラシ油を入れ、コケで作ったランプの芯で明かりを灯す道具だ。ランプのあるところが家だと孫娘を送り出した祖母が言う。その言葉通り、ランプはいつも絵の中心にあり、まわりを家族が囲んでいる。北極の暗い冬と寒さ、そして狩猟民族のこころがこのランプを通して描かれている。

氷の海とアザラシのランプ カールーク号北極探検記
原題 The lamp, the ice and the boat called Fish (2001)
文 ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン(Jacqueline Briggs Martin)
絵 ベス・クロムス(Beth Krommes)
訳 千葉茂樹
発行 BL出版(2002年3月)

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カテゴリー: 絵本