溝口健二監督/近松物語

NHK衛星放送の溝口特集を見る。1954年の作品。単なる悲恋物語なのだが、ただならないテンションの高さを感じてしまった。監督はもちろんだが、役者をはじめ、小道具や衣装にいたるまで、憑かれたような気配を感じてしまう。「雨月物語」、「雪夫人絵図」そして「近松物語」と3本の溝口作品を見続けて、戦争が溝口作品を生み出しているということを強く感じた。
封建時代の二人の恋を通して、おいえ(家)のために生きるか個人のアイデンティティを取って、死の道を選ぶのかを問うている。とりもなおさず、国家のために死ななければならなかった、わずか数年前の心情が息づいている。監督にも、役者にも制作者全員に。さらには、当時の観客にも息づいていたに違いない。

現在では、溝口は黒沢や小津に比べて関心を集める度合いが低いという。それは溝口作品が終戦直後の高度な大衆娯楽映画だったからに違いないと思う。溝口作品は観客にもテンションを強いた。そんなテンションに応えることのできる時代はあの頃しかない。

主役の香川京子の美しさといったらない。ヘアデザインと裾の長い着物のバランス。そのバランスからこれしかないと思える立ち居振る舞いがとても美しい。若い女中役の南田洋子が印象に残る。

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カテゴリー: Movie