溝口健二監督/祇園囃子

NHK衛星放送で見る。1953年作品。これまでに見て来た、雨月物語(1953)、雪夫人絵図(1950)、近松物語(1954)に比べるならインパクトに欠ける作品だと思った。これらの3作品には「戦後」という情念ともいえる熱いものを感じたが、本作品では感じることがなかった。芸者美代春と舞妓の栄子の二人は血のつながりもないのに、姉妹のように仲良く。明日に向かって生きていくという人情話にしか見えないのが残念だった。

しかし、映画作りにかける情念は目立った。とりわけ、若尾文子演じる舞妓のお披露目の日のシーンには感動した。芸者の小暮実千代と若い舞妓の若尾文子は二人の男衆に先導されての挨拶まわりのシーンだ。4人は祇園の町を、まさに、駆け抜ける。小走りする二人の美しさ、町行く人からのお祝いのことばを含めて、4人が巻き起こす喧噪をカメラの長まわしがスピード溢れる臨場感で描ききる。ラストも良かった。小暮と若尾の二人が祇園を歩くシーンだ。これはもう、日本的叙情の湿ったカメラではなくて、ぼくが若い頃に慣れ親しんだフランスのトリフォーやゴダールのヌーベルヴァーグそのものだった。溝口から影響を受けたトリフォーやゴダールのフィルムをぼくは見ていたんだ。

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