ジェイン・レズリー・コンリー 著、尾崎愛子 訳(福音館書店、2008年7月)
福音館書店
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シャーナと弟のコーディーは時々けんかもするけど、仲の良い姉と弟で、二人は家の近くの川で泳いだり釣りをして遊んできた。シャーナの大好きな父親が家を出て行ったので、電話交換手をしていた母親は、職場に転勤を願い出る。ほかの州など旅行もしたことのない二人の子どもは母親に付いて、バージニア州から隣のメリーランド州へ引っ越して、今までの町よりも都会に住むことになった。
都会の生徒たちはクールで、南部なまりのあるシャーナを相手にしない。弟のコーディは目立とうと馬鹿なことを繰り返すが、受け入れられそうにない。ある日、母親の同僚がペンシルバニア州南部の川沿いの小屋を借してくれることになった。三人は夏休みをここで暮らすことにする。母はここから車で職場に通う。昼間、姉と弟は二人きりで川で遊ぶ。その上、シャーナには読書と物語を書くことが好きだった。そして、森林管理官を自称する川を愛する老人との出会いが、シャーナの特別な夏となる。
原題は『Trout Summer』。9月が近づき、川沿いの小屋を立ち去る日、シャーナはみごとなマスを釣り損ねる。一瞬、川面に姿を現したマスは彼女の記憶に生き生きと刻み込まれる。しかし、この夏の記憶はマスだけではない。9月になると高校生になるシャーナがアイデンティティを自覚する夏だった。『ほとばしる夏』とはほんとうに素敵な題名をつけたものだと思う。ぼくは、このタイトルに惹かれて本書を手にしたんだ。
月桂樹の木立の中に
ほとばしる流れの音の中に
ニジマスの模様の中に
私の名前をさがしにゆこう川に入り江の中に
アルゴンキン族の野営地の中に
ツガの緑の枝先に
私の名前をさがしにゆこう
シャーナはある日、川べりに立ち、何百年も昔にこの川ぞいに住んでいたインディアンの一族に思いをはせる。すると、彼女と同じような年頃の女の子が想像され、不意に詩が聞こえてくる。それを書き留めたのが上記の詩だ。父親が出て行ったことを契機に、家族はそれぞれが自分の道を選択することになる。その現実をシャーナが受け入れるまでを描いた美しい小説だ。