読書メモ:絲山秋子著『沖で待つ』

沖で待つ (文春文庫)

文學会 2005年9月号初出

芥川賞受賞作ということで期待していたが、絲山作品には珍しく楽しめなかった。でも、短いし、単調なストーリーなのでさらさらと読んだ。今日みたいなふぬけで何も手につかない日は、テレビがあればスイッチを入れたら最後、ダラダラと見続けるだろう。そんな感覚でだらだらと『沖で待つ』を読んだ。

ぼくが絲山作品を読み続けているのは、マイノリティの立場からマジョリティに対して辛辣な視線を向ける主人公たちに共感しているからだ。ところが、本書の登場人物はマジョリティな人々だった。これでは共感はない。住宅設備機器のメーカーに総合職として就職した女子及川と同期の男子牧原との友情を描いたもの。

同期ならではの濃密でいて、恋愛に発展することのない友情があるらしい。妻と別次元の深い信頼で結ばれた関係を描いたもの。これまで読んだ絲山作品にはない清潔な作品。だから、芥川賞か?