村山由佳著『ダブル・ファンタジー』

W/F ダブル・ファンタジー金曜日にはいろいろと活動(?)のし過ぎで、治っていた風邪がぶり返したみたい。たいした咳じゃないけど止まらない。そんなんで土曜日以降は遊びに出ないで家にこもっていた。おかげで、読みかけ中の村山由佳著の長編小説『ダブル・ファンタジー』読んでしまった。

全く知らない作家だったが、週刊誌で新刊の『花酔ひ』でインタビューを受けていて、作家の語るセックス観に興味を持ち、作品を読みたくなった。市立図書館に予約したら、新刊の方はすごい人気で当分読めそうにないので前作の『ダブル・ファンタジー』を借りて読んだ。

これは女性作家によるセックス描写が濃厚な長編小説。ま、それはそれとして、ぼくがこの小説に興味を持ったのは女性から見た男たちのこと。多くの男性たちはこの小説を読めないと思う。彼女の描く辛辣な男性像に不愉快になって読み進むことはできないんじゃないだろうか。ぼくは男社会に嫌気がさしていて、もう “男” を止めたいと思ってるぐらいだから読めたんだけど(笑)。でも、男性描写の辛辣さには不愉快と痛快が混じり合った気持ちで読んだ。

5人の男たちが登場するが、最後の一人を除いてどれも批判的に描かれている。特に夫の描写が優れていると思う。妻への支配欲と依存症という矛盾する性格を合わせ持つ夫像が的確すぎて、ここまで書くかとゲッとなる。的確というのは自分にも当てはまるところがあるからで、たぶん、多くの夫たちには大なり小なり思い当たる節はあるんじゃないかと思う。

主人公は35才のシナリオライター。テレビドラマの仕事がメインの売れっ子。でも、彼女はお金にならなくてもいいから演劇の脚本のような芸術性の高い作品を書きたいと思っている。そのために意見の合わない夫と別居して一人暮らしをはじめる。夫から自由になり遊びや恋で男たちとの逢瀬を重ねる。しかし、好きになっても恋は持続しない。捨てられたり捨てたり。

最後に登場する年下の男とはセックスを重ねるうちに愛がふくらむ。しかし、彼女はそのことばを飲み込んで相手に伝えない。ラストがいい。二人はとてもいいムードで江戸川の花火大会に出かける。花火の終了後、彼女は強い孤独感に襲われるが、それが自由の代償だと知っている。小説はここでいきなり終わる。多分二人は別れる。そんな余韻を残すおしゃれな終わり方だった。

(文芸春秋、2009年1月発行)