アーキテクチャの生態系 / ウェブ・サービスの日本的な現象を分かりやすく解説

濱野智史 著(NTT出版、2008年10月発行)

アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか
濱野 智史
エヌティティ出版
売り上げランキング: 7476

ブログ、2ちゃんねる、ミクシィ、ウィニー、ニコニコ動画などのウェブ・サービスの日本独特の現象を分析した本。今までに読んだどんな解説書よりも、これらについて理解できたと思う。ブログやミクシィなどのSNSが日本独特の現象を持つのは、日本の「ムラ的共同体=内輪=世間に個人が埋没してしまう」ことからきていると筆者は説明している。これらのサービスに参加することで、集団主義の中に埋没する快感を得ることができるので、多数のユーザーをミクシィなどが獲得できているのだと思う。

日本がムラ的共同体、あるいは集団主義の国であることは、べつに新しい指摘でない。しかし、ウェブ・サービスの分析で真っ正面から言われるとインパクトが強い。しかも、1980年生まれの若い研究者であること。彼の分析が2チャンネルやミクシィについて非常に分かりやすいことなどの理由からインパクトが増しているようだ。

ウェブのイノベーター的スタンスから、2ちゃんねるやミクシィを肯定する意見は余り聞かれない。あるいは、無視だろう。これらを肯定するには、ムラ的共同体や集団主義を持ち出さなくてはならないので、それを避けて無視しているのかもしれない。

まさに、ぼく自身がそうだった。第2次大戦から時がたてばたつほど、ムラ的共同体は薄れていくと思っていた。あるいは、そう考える環境が一般的だった。だから、ブログは「個をエンパワーメントするツール」として日本でも紹介されたはずだった。本書を読むと、実は日本では、そうではなかったと思い知らされたようなものだ。

ムラ的共同体や集団主義はこのまま、ずっと続くのだろうか。ぼくはあくまで薄れて行くものだと思いたい。小学生のときのぼくは、テレビを持っている一軒の家に上がり込んで、大勢で野球を見た年代だ。それは、一斉同時にコンテンツをブロードキャストするメディアをムラ的共同体の中で楽しんでいたということか。それから家庭単位のテレビになり、個室で一人で見るテレビになり、今では記録機器やインターネットの発達により、テレビから「日本人全体がこれを見ている」という一体感が消えてしまった。ニコニコ動画は、この失われた一体感を再現しているようなものだと筆者は書いている。

さらに、ニコニコ動画こそがインターネットとマスメディア(テレビ)の融合を実現したものだとも書いている。鋭いなーと思った。今後の2ちゃんねるやニコニコ動画の動向を、ミクシィの変化を本書の視点から見て行きたいと思った。

投稿日:
カテゴリー: Web