ラヴ・セイヴス・ザ・デイ-究極のDJ/クラブ・カルチャー史

ティム・ローレンス 著(ブルース・インターアクションズ、2008年6月発行)

ラヴ・セイヴス・ザ・デイ 究極のDJ/クラブ・カルチャー史 (P-Vine Books)
ティム・ローレンス
ブルース・インターアクションズ
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デイヴィッド・マンキューソと〈ザ・ロフト〉、フランシス・グラッソと〈サンクチュアリー〉、ニッキー・シアーノと〈ザ・ギャラリー〉、フランキー・ナックルズと〈ウェアハウス〉、ティー・スコットと〈ベター・デイズ〉そして、ラリー・レヴァンと〈パラダイス・ガラージ〉といった具合に70年代のDJたちは特定のクラブの客たちとの同盟関係を築いていたという。

これらDJたちと、クラブの関係者や常連客への膨大なインタビューから本書は構成されている。このアンダーグラウンドで行われたパーティとは別に、一般によく知られたセレブ文化的なディスコである〈スタジオ54〉や映画『サタデー・ナイト・フィーバー』で巻き起こったディスコ・ブームを背景とするダンス・ミュージックの音楽業界も詳細に検証されている。

なぜ、70年代なのか。それは、〈ザ・ロフト〉がスタートし、〈サンクチュアリー〉が再オープンしたのが1970年。この二つのクラブが生み出した新しいDJスタイルとダンスが、その後の10年間の文化的儀式を特徴づけるものだったと書いてある。
そして、1979年は音楽業界から「ディスコ」という言葉が消え、何千というディスコティックが閉店した。このように、1970年はナイトシーンにおける決定的なターニング・ポイントであり、そして以後10年続いたダンスの時代が象徴的な終焉を迎えたのが1979年というように、70年代には決定的な始まりと終わりがあると書いてある。

原題は「love saves the day – a history of american dance music culture, 1970-1979」。2003年の出版。「love saves the day」はデイヴィッド・マンキューソが開いたパーティの名前。本書は1970年-2000年をカバーする予定だったらしいが、文字数が多くなり70年代で区切りをつけたと書いてある。著者は続編を予告している。

ほんとうにすごい本だと思う。ぎっしりと活字のつまった450ページ余りに、70年代のクラブ・カルチャーがこと細かく描写されている。そのひとつ一つが記録としておもしろいので、飛ばし読みができなかった。なので、読み終わるのにずいぶんと時間が掛かってしまった。最初に読んだ部分など、もうほとんど記憶にない。インタビューの相手として登場する人物の名前を覚えているうちに、もう一度読めば、全体像をよりはっきりとつかむことができるはずだ。

ぼくはジャズを聞くのも好きだが、モダン・ジャズの始まりである1940年代のビ・バップの時代を想像することはとてもエキサイティングな気持ちになる。しかし、その時代の資料はとぼしく、音源も少なくてジャズ史の本を読んでも決定的なことは分からない。本書を読めば、ダンス・ミュージックについて、エキサイティングにさせてくれるのは70年代ということになるらしい。

本書にはこの70年代に活躍したDJたちのクラブでプレイしたディスコグラフィが、いくつも載っている。そのナンバーをYouTubeで検索するなら、そのほとんどを即座に知ることができる。運が良ければ、同時のダンス・シーンも見ることもできる。このようにして、本書の文字を追い、当時のナンバーを聞くことで70年代のニューヨークのナイトシーンをいくらか想像することはできる。ただ、70年代のリアルな体験にかなうものではない。だが、70年代のダンス・カルチャーは生き延びて、シカゴ・ハウス、そしてデトロイト・テクノに受け継がれて、クラブ・カルチャーは世界中に広がっていると最後に書いてある。