アンドリュー S. グローブ著、樫村志保訳(日系BP社、2002年9月発行)
世界最大の半導体メーカー “インテル” の設立メンバーの一人、アンドリュー・グローブの自伝。非常におもしろい。1936年の誕生から1960年、ニューヨーク市立大学を卒業し、カリフォルニア大学バークレー校の大学院に進むため、車でサンフランシスコに到着するまでが描かれている。インテルを設立するのは8年後の1968年だ。
アンドリュー・グローブは、ハンガリーのブダペスト生まれで、20歳の1957年にアメリカに亡命する。本書はその間を克明に書き記した自伝。なんか、すごすぎる半生で驚いた。同時に当時のブダペストの状況が非常によく分かる内容となっている。
著者がアメリカへ亡命するきっかけは1956年のハンガリー動乱だ。計算すると、ぼくは小学4年生ということになるが、新聞紙面に大きく掲載された戦車の写真を見たことを今でもかすかに覚えている。でも、確かなことはもう分からない、ひょっとしたら1968年の「プラハの春」と混同しているかもしれない。
1956年、ハンガリー国民は共産党政府の圧政に対して蜂起するが、ソ連が軍事介入してくる。そんな暗いブダペストで大学へ通っていたアンドリュー・グローブだが、ある日、ナチスのアウシュヴィッツの生き残りであるおばが訪ねてきて、亡命をすすめる。
そう、アンドリュー・グローブの半生は、平和と圧政による緊張が繰り返されるブダペストでの生活だった。ナチス・ドイツの侵攻とユダヤ人であることで受ける迫害、ソ連軍がドイツ軍を追いやって、第二次大戦は集結するものの、その後のハンガリー国内における共産党の独裁政治。共産党政府への国民的蜂起をきっかけにソ連軍の侵攻という具合だ。この時代の歴史がよく分かる。
また、文章が生々しいので、特にハンガリーから隣国のオーストリア国境を徒歩で越え、最終的には困難を乗り越えて希望するアメリカはニューヨークへ船で到着するところは感動的だった。亡命の困難なことがとてもリアルに伝わってくる。
第二次大戦後、ソ連が北海道をあるいは日本を占領していたら・・・。ぼくも似たような境遇にあっていたかもしれないという想像が本書によってとてもリアルに描ける。ぼくは著者のように亡命をする勇気があっただろうか。あるいは著者のおばが亡命をすすめたのは、ブダペストの街でソ連軍がハンガリーの青年達をトラックに強制的に乗せているのを目撃したからだった。強制労働が目的でソ連へ送られる人生も可能性としてはあったんだ・・・という空想をしてしまうほど、なんか、すごい筆力のある自伝だった。