ヨハネスブルクへの旅 / アパルトヘイトの南アフリカ共和国を描いた児童向け小説

ヨハネスブルクへの旅幼い姉と弟の二人だけで遠く離れたヨハネスブルグへ旅をする。病気の妹を救うため、家政婦として住み込みで働いている母のいるヨハネスブルグに向かう。途中、善意ある人たちに助けられながら母と会い、家に戻り、母は赤ん坊を医者に連れて行くというストーリー。

単調なストーリー、比較的短い物語だし、小説として楽しむには軽すぎたと読後に思った。しかし、本書の成り立ちを訳者のあとがきで読んで、本書の存在を重く受け止めた。作者のビヴァリー・ナイドゥーはアパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカ共和国に白人として生まれ育ち、大学生のときに反アパルトヘイト運動に身を投じて逮捕され、投獄を経験しているという。その後、イギリスに亡命して1985年に本書を発表している。

アパルトヘイトが撤廃されるのは1994年だから、その10年近く前に本書は出版されたわけだ。本書は南ア共和国の多くの黒人児童や心ある白人児童に影響を与えたことだと思う。簡潔なストーリーの中にアパルトヘイト下の黒人の生活が生々しく描かれているので、今のぼくが読んでも得るところは大きかった。

二人の兄弟が初めての大都会ヨハネスブルグに到着してバスに乗ろうとして拒否される。そのとき、若い黒人女性が二人を助け、「白人以外」と書かれた標識でバスを待つように教えられる。つまり、南ア共和国は黒人だけでなく、東洋人を含めた有色人種全体を白人から隔離していた。

本書を読んでいて思い出したことがある。日本は1956年に南極観測を始める。その記録映画を授業の一貫として学年全員で映画館まで見に行った。初代南極観測船宗谷丸が日本の港を出航するところから映画は始まったと思う。南極を目前とした最後の補給地、南ア共和国のケープタウンに停泊する。アパルトヘイトでも、有色人種の日本人は名誉白人として白人と同等の立場にあるというようなナレーションがあった。

その時は小学生の5、6年生だったから名誉白人という言葉を理解することは難しかった。しかし、日本人は優れているという誇らしげな気持ちを抱いた。そんな空気の前で、人種差別に対する疑問は生じなかった。成長して名誉白人という言葉をよく理解するようになったとき、真っ先にこの記録映画のことを思い出したものだ。その苦い記憶が本書を読んで思い出した。

ビヴァリー・ナイドゥー 作
もりうち すみこ 訳
さ・え・ら書房、2008年4月発行

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カテゴリー: 読書