ウェブを変える10の破壊的トレンド / 渡辺弘美 著

ウェブを変える10の破壊的トレンドソフトバンククリエイティブ、2007年12月発行

顧客の意見に常に耳を傾ける優良企業は「持続的技術」への投資を維持するが、リーダーの座から転落させるような「破壊的技術」の登場を無視してしまうという。アメリカを中心としたIT分野の破壊的なイノベーションの登場とその背景にあるユーザー主導の時代変化を「破壊的トレンド」と表現し、10の代表的なトレンドを紹介すると本書の最初にある。

例えば最初のトレンドである「ダイレクト(Direct)」では、フィード・リーダーから始まる。アメリカではブログラインズ(Bloglines)とグーグル・リーダー(Google Reader)が多くの人に利用されているそうだ。フィードのテクノロジーが注目されると、フィードの配信を容易にし、かつフィード情報のトラッキングを解析するプラットホーム技術が必要となる。それがフィードバーナー(FeedBurner)。さらには、フィード情報を自由に加工して、自分なりのフィード情報を生成するプラットホーム技術が注目を浴びる。それがヤフーが発表しているパイプス(Pipes)。

次いで、アメリカで最もホットだというウィジェット(Widget)の詳しい説明がある。ガジェット(Gadget)とかアプリケーションと呼ばれるものだ。ウィジェットが注目されたのは、SNSのフェイスブック(Faebook)のガジェットが急増し、ユーザーはプロフィールページをカスタマイズする選択肢が広がったことにある。

マック OS X 10.5 レバードのウェブ・ウィジェットなど多数の動向が紹介されているが、重要なことは、マス(大衆)を相手に一斉に流れていた情報が、ユーザーから選別されることになる。つまり、情報の選択権が配信者から利用者に移る。これが「ダイレクト」な時代だというわけ。

最初の章でこんな調子だから、あとの9つのトレンドを読み進めると、もうクラクラしてしまった。もー、Webの進化には追いつけそうにないという悲観的な気持ちになってしまった。そんな気持ちになるぐらいに新しいテクノロジーが多い。本書は現在の新しいテクノロジーの概要を知ろうとするにはうってつけだと思う。

実はぼく自身「破壊的トレンド」に遭遇した経験を持っている。ぼくは印刷関係の仕事をするなかで「版下」という職種を選んだ。アメリカのデザイン書籍を見ているとき、大勢の高齢の版下技術者が元気に働いている写真を見た。これなら歳をとっても働けると思ったからだ。版下はグラフィックデザイナーのアイデアから印刷原稿を制作する技術だ。版下とはきってもきれない写植の技術も身につけて、70年代後半には小さな事務所を持った。しかし、80年代後半からグラフィックデザイナー自身がMacを所有し始め、写植と版下の作業を自らの手で始めた。90年代の後半には写植、版下の業態はほぼ消失してしまい、ぼくは廃業した。

本書のあとがきで著者は、タイトルに使用した「破壊的トレンド」だが、言葉の響きとして音をたてて短時間のうちに風景が変わってしまうというニュアンスがあるようだが、実は違うと書いている。

実際には、じわりじわりと、にじり寄るように変化が生じており、気づいたときには流れに逆らうことはできないほどの大きな力になっているというのが正確なところであろう。

「にじり寄るような変化」とはうまいことを言う。まさにぼくが体験したことだった。1987年にMacPlusを購入して、1997年に事務所をたたんで写植と版下業を廃業した。その10年間の、にじり寄るような変化は体験した者でなければ分からない「すごさ」がある。

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カテゴリー: Web