みずうみにきえた村 / バーバラ・クーニーが絵の絵本

早々と夏の終わりを感じさせる日々がつづいている。この夏の思い出といっても最高に暑かったことぐらいだが、そんな情けない思い出だけでもなつかしくなるのが夏の終わりだ。この絵本は過ぎ行く夏にぴったりの叙情的な物語。バーバラ・クーニーの詩的な絵を眺めていると、物語の叙情にはまり込む。

主人公の女の子サリー・ジェーンが6つの頃から絵本が始まる。彼女の寝室の窓の外にはヤナギの木があり、その長い枝のあいだを風が通り過ぎていく。都会から遠く離れた山の中の村に彼女は住んでいる。その村はダムが完成して水没する。ダムの計画がもちあがり、村はお墓の引越から始まって、木の伐採、建物の取り壊しと続いていくうちに、サリーは女の子から少女に成長する。そして村を離れて街へ引っ越す。

それからも父はサリーをダムの工事現場に何度も同行させて、「わたしらの村をおぼえておくんだよ」と言う。ダムが完成し、若い女性に成長したサリーは父と二人でダム湖でボートをこぐ。水を通して湖底に村の道が見える。思い出に浸りながら暗くなって、チカチカと光る湖面を眺める彼女はホタルを捕まえて遊んだ子どもの頃を思い出す。

夏の夜には友だちと家の庭のカエデの木の下で眠った。枝のあいだにはホタルがチカチカと光っている。その友だちが街のいとこを連れて来て、三人でホタルを捕まえて遊んだとき、母が家から出てきて「はなしてやらなくちゃだめよ、サリー・ジェーン」と言われて、言われたとおりにする。いま、その母の声を水にしずんでしまった年月のむこうか、サリー・ジェーンはボートの上で聞いている。

ジェーン・ヨーレン文、バーバラ・クーニー絵、掛川恭子訳
ほるぷ出版、1996年10月発行

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カテゴリー: 絵本