1986年フランス映画。ビデオだが映画を久しぶりに見た。仕事が忙しくて緊張が続いているせいだ。そんなんでも音楽を聞く機会は作っているので、よけいに部屋でのんびりと映画を見る時間がとれない。でも、エリック・ロメールの作品だと、ちょっと気晴らしに見てみようとなる。
この作品もそうだけど、ロメールの映像って、軽くスケッチするみたいなカメラワークがとてもいい。この浮遊感はトリフォーにも、ゴダールにも、『地下鉄のザジ』なんかのルイ・マルにもあるけど、これらヌーヴェル・ヴァーグの作家たちとロメールはちょっと、というかだいぶんに違う。
どちらが好きかというと断然ヌーヴェル・ヴァーグの作家たちだが、ロメールのこのフニャフニャとした映画だから見たくなる時がある。ヌーヴェル・ヴァーグの映画は好きだが、ついつい構えて見てしまうのでちょっと疲れる。ロメールのはそんなことがない。
パリで一人暮らしをしているデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は夏のバカンスをひょんなことから一人で過ごすことになる。女ともだちのはからいで、シェルブールの彼女の家族と過ごすが、親切な人たちに溶け込めない。スイスの山とか南仏の海岸へも行くが、一人じゃイヤでその度にパリへ戻ってくる。そしてバカンスに行かない人たちが大勢のセーヌの河岸を歩いたりもするが、それもイヤ。
人となじめないんだから、芯が強いかと言えばよく泣くし、かよわい人なんだ。そんなデルフィーヌの心情を描き出すカメラワークの軽さがすごい。ま、最後にはいい出会いがあって終わるけど、そのきっかけが夏のバカンスに持ち歩いているドストエフスキーの『白痴』だってんで笑ってしまう。フツー、夏の太陽の下で読まんだろう・・・。パリへ帰る駅舎で列車待ちで読んでると、「『白痴』ですね、もうすぐ終わりですね・・・」と男が言う。なんたって長い小説だから、この台詞は効くよ。