ビロードのうさぎ / あっちの世界とこっちの世界がつながる幸福感

例えば、ジョイス・ダンバー(作)とスーザン・バーレイ(絵)の『てろんてろんちゃん』のように、あっちの世界とこっちの世界がどこかでつながる。つながることで幸福な気持ちがジワーと湧き出てくる。『ビロードのうさぎ』はそんな巧みなストーリーとともに絵が素晴らしいので、幸福感も大きい。

小さな男の子はあるクリスマスの日にビロードでできたうさぎのぬいぐるみをプレゼントされる。ちょっと遊んだものの、他のたくさんのおもちゃと一緒に子ども部屋の棚の中ですごすことになる。そこでは高価なおもちゃや、機械仕掛けの動くおもちゃたちが、自分こそ本物だと自慢し合っている。ただのビロードのうさぎはそんなおもちゃの中で小さくなっている。

ある夜、お手伝いさんがたまたまビロードのうさぎをベッドの坊やに抱かせたわけ。その夜から坊やは毎晩うさぎを抱いて寝るようになる。昼間だって連れ歩くようになって、長い間、坊やとうさぎは友だちになる。ある夜、お手伝いさんが、汚れたビロードのうさぎの泥を拭きながら、「こんなおもちゃ・・・」と言う。坊やは「おもちゃじゃない、ほんとうのうさぎなの」と言う。うさぎは坊やの言葉を聞いてうれしくてうれしくてたまらない。

坊やが森へ連れ出してくれた日、草の上に座らせていると、生きている本物のうさぎがやってくる。遊ぼうと誘っても動かないビロードのうさぎに、本物のうさぎは「なんだ、ほんとうのうさぎじゃない」と言って立ち去っていく。とてもショックを受けたビロードのうさぎだったが、坊やとの仲は続いていた。でも、それも終わりになる日がやってくる・・・。

最後のページはほんとすごい。一瞬、読んでいる部屋の空気が凍りついた。真夜中に読むのがいいかも・・・。とにかく、絵がすごくいい。構図も大胆なのがいい。ちょっと暗いけど、ストーリーによく合っている。著者のマージェリィ・W・ビアンコは1881年にロンドンで生まれ、結婚後、アメリカに住んでから小説を書いて、1944年にニューヨークで死んだと本書に書いてあった。『ビロードのうさぎ』がいつの作品か書いていない。これまでも絵本として何冊も出版されて有名な作品らしい。

ビロードのうさぎ
原題 The Velveteen Rabbit
原作 マージェリィ・W・ビアンコ
絵・抄訳 酒井駒子((c) 2007 Komako Sakai)
発行 ブロンズ新社、2007年4月

投稿日:
カテゴリー: 絵本