恋人たち / ルイ・マル監督の新しいラブロマンス映画

1958年フランス映画。ルイ・マル監督の長編第1作『死刑台のエレベーター』(57年)に続く第2作目。三作目が『地下鉄のザジ』(60年)で、本作はミステリー調とスラップスティック・コメディの間にはさまれた文芸風なラブロンス映画だ。アンリ・ドカエ撮影のしっとりとした美しい白黒画面に引きつけられる。後半の月明かりの戸外で繰り広げられるラブシーンの長いカットは、まるでダダイスト、マン・レイの美しいソラリゼーション写真を思わせる。音楽は第1作のモダンジャズからブラームスに変わっているが、官能的なサウンドであることには変わりない。

人妻ジャンヌを演じているのがジャンヌ・モローで、彼女のための映画のような気がする。ジャンヌにはパリから少し離れた地方都市で新聞社を経営する夫と幼い娘がいる。屋敷では何人かの使用人を使う成熟した上流階級の停滞した生活を送っている。ジャンヌが生気を取り戻すのは、泊まりがけでパリの女友達を訪ねるとき。その社交界でジャンヌは自信を深め、いつしかポロの名手を愛人にするようになる。

夫との話しのいきさつから、女友だちとポロの名手を屋敷に招待することになる。その招待日にパリから戻るジャンヌの高級車が故障し、通りがかったベルナール(ジャン・マリク・ボリー)という考古学者の青年の大衆車で屋敷に到着する。夫はベルナールも食事に招待し、一夜の部屋を提供する。

その夜、寝付けないジャンヌが外にでると、ベルナールが居た。月明かりの中で二人は想いを募らせて行く。そして、ジャンヌの部屋に戻って燃えるような一夜を送ると翌朝、女友達や愛人、夫たちが唖然として見送る中を二人は悠然と大衆車で屋敷を後にする。太陽が登り、朝の明るさの中で、はやくもペシミスティックな想いにおそわれるジャンヌだ。ハッピーエンドが悲劇の始まりを暗示している。

この映画が作られて10年後にはパリ五月革命やプラハの春が待ち構えている。既成の価値観からの脱出というテーマに向かって、ヒタヒタと足音が聞こえてくる。アメリカの50年代、郊外住宅というステレオタイプな幸福を手にした専業主婦に、ひと時の夢を与え続けたハリウッド製ラブロマンス映画の成熟しきった時代にルイ・マル監督が提供した新しい傑作ラブストーリー。

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カテゴリー: Movie