1971年フランス映画。20世紀初頭のパリとイギリスの寒村を舞台にした作品。フランス人青年がイギリス人姉妹二人に恋をし、苦悩する文芸作品。文芸作品だからトリフォーらしい映画を期待すると裏切られる。原作はトリフォーの傑作である『突然炎の如く』の原作者でもあるアンリ・ピエール・ロシェの小説。『突然炎の如く』は一人の女性が二人の男性を愛する映画だった。そのエキセントリックな女性をジャンヌ・モローが演じていて、ぼくの大好きな映画だ。『恋のエチュード』の方は単なる文芸作品としか思えなかった。
フランス人青年を演じるのがジャン・ピエール・レオのせいか、どうしてもアントワーヌ・ドワネル五部作のノリで見ようとしてしまう。すると、ドワネル・シリーズと文芸作品の本作の落差が埋められなれないままに映画が終わってしまった。ドワネル・シリーズと切り離して見ることができれば、いい映画なのかもしれないが、ぼくにはそれができなかった。
ドワネル・シリーズは1959年から1970年にかけて作られたジャン・ピエール・レオを主人公とする作品だ。何がいいといって、主人公の青年の存在の希薄なことだ。そこがとっても良かった。でも、それでは不満だとトリフォー監督、またはジャン・ピエール・レオが思ったのかもしれない。主役のアイディンティティを描こうと・・・。
クロード(ジャン・ピエール・レオ)の母の旧友の娘アンヌがイギリスからパリに遊びに来た。彫刻家になる夢を抱いているアンヌと意気投合したクロードはイギリス行きを約束する。アンヌの家は妹のミュリエルと母の三人暮らしで、その家庭にクロードは逗留することになる。その間、アンヌはクロードを愛していながら、クロードとミュリエルが惹かれ合うように画策する。クロードとミュリエルの間に愛が生じて、ついに結婚を決意するが、クロードの母の反対で、二人は1年間の冷却期間を置くことを条件に婚約が許される。
パリに戻ったクロードは美術評論家として活躍し、女流アーティストたちとの情事を重ねるうちにミュリエルへの熱が醒め、婚約を解消する手紙を書く。ミュリエルは愛しながらも承諾の返事をする。その後、姉のアンヌはパリで彫刻家としての活動を始める。そのアトリエを訪ねたクロードはアンヌへの愛を確信してスイスの湖畔で結ばれる。アンヌの方はクロードに執着せず、別な男とペルシャに旅立った。
妹のミュリエルはイギリスの寒村のこども達を集めて日曜学校の先生をするなど、自分に厳しいピューリタンの静かな生活をしている。その彼女が姉に連れられてパリにやって来た。あれから4年後の再会でクロードはミュリエルに強く惹かれる。姉のアンヌも妹の幸せは二人の結婚にあると思う。しかし、クロードとの関係を隠す不実ができるわけもなく、妹に告白する。ミュリエルはその事実を受け入れることができず、国へ帰りクロードに別れの手紙を書く。その手紙に苦しんだ、クロードは小説を書く。
アントワーヌ・ドワネル五部作のジャン・ピエール・レオも小説を書くが、『恋のエチュード』の小説を書く動機は重い。この重さが、トリフォー的でないし、ジャン・ピエール・レオ的でもなく、ぼくはこの映画そのものに違和感を抱いた。でも、これは監督と役者の二人が望んだことに違いないと思っている。
結局、アンヌは病死し、ミュリエルがドイツへ英語教師として赴任する途中のカレーへクロードは訪ねる。出会ってから7年目、ここで二人は初めて結ばれるが、ミュリエルはドイツへ旅立って行く。15年後、風のたよりにミュリエルは結婚し子どもがいることを知る。かつてアンヌを案内して何度も訪れたロダン美術館にイギリスからの大勢の中学生がいる。その中にミュリエルの子がいるかもしれないと淡い期待を持って眺めている老け込んだクロードがいる。