溝口健二監督/山椒大夫

NHK衛星放送で見る。1954年作品。平安時代末、人買いにさらわれた安寿と厨子王の物語。1954年といえば、ぼくは9才。当時、家にある絵本といえば、この「安寿と厨子王丸」とか「一休さん」、「いなばの白ウサギ」みたいなつまらないものしかなかった。ぼくはとりわけ「安寿と厨子王丸」が嫌いだったが、これは当時はまだ盛んだった紙芝居でも定番で、好きでもないのによく覚えてしまった物語だ。遊んでいて夕方、暗くなると「人買いがくるよ!」なんて叱られていた時代だ。

今回はこの映画によって、安寿と厨子王が買われた先が、右大臣の荘園の一つであること、山椒大夫は買われた先の一荘園の管理人であることなど、歴史の勉強ができた。いわば日本における奴隷制度の時代で、安寿は運命に糸に操られるようにして、出世し、荘園の奴隷解放を果たす。見ているこちらが、ちょっと気恥ずかしくなる。ぼくは意識していないが、最近は何かとやり玉にあげられる戦後民主主義教育で育っている。しかし、育った当人のぼくには戦後民主主義教育って、よく分からない。この映画の荘園奴隷解放のシーンを見ていて、あ、これが戦後民主主義かと思った。

最後は一家で生き残った二人だけ、母と厨子王の劇的な再会で終わる。誰もが知っている物語での観客動員を狙った単なる娯楽作品とは思えない、熱の入った作品だ。映画をアートにする渾身の情熱が監督以下のスタッフが傾むけているようだ。事実、この作品はベネチア映画祭銀獅子賞を受賞する。はっとするほどの美しいシーンもある。しかし、製作の意図が伝わってこない。

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カテゴリー: Movie