マイケル・モーバーゴ著、マイケル・フォアマン絵、さくまゆみこ訳(岩崎書店、2010年7月発行)
著者のマイケル・モーパーゴは2年前に読んだことがある。それは、第一次世界大戦の西部戦線を描いたナイーブな戦争小説『兵士ピースフル』だった。『兵士ピースフル』は児童文学だが、本書は絵本。絵本と言っても、文章の多い絵本。ストーリーに引き込まれて、一気に読んでしまった。しかし、本書は絵も良かった。特にナチスの強制収容所の絵に見入ってしまった。
『モーツァルトはおことわり』は、ベニスの天才バイオリニスト、ポオロ・レヴィへ新米の若い編集者がインタビューするところから始まる。演奏旅行以外は、生まれ故郷のベニスで静かに暮らすポオロが、これまで明かすことのなかった過去を初めて若い編集者に語り出す。
なぜ「モーツァルトはおことわり」なのか、彼の両親のたどった運命から分かることになる。両親はユダヤ人で、ナチの強制収容所へ送られた。幸運にもプロの音楽家を収容所が求めていたおかげで、ガス室へ送られずに生き延びることになった。
次々に強制収容所に到着する貨物列車から降りて来る大勢のユダヤ人たち。長い旅の後、シャワー室と言われてガス室へ送られるひととき、収容所の楽団がモーツァルトの音楽で収容者たちを癒すのだった。
ポオロの若い父と母は演奏仲間として知り合い、お互いに惹かれ合って終戦を迎える。そして結婚して、ポオロが生まれる。両親は演奏することで、収容所で生き延びることができたという自責の念から音楽を捨て、ベニスで理髪店を営む。そのベニスの路上で一人の老バイオリニストの演奏を息子のポオロが聞き、それをきっかけに彼は天才バイオリニストの道を歩き出す。路上の老バイオリニストは、強制収容所での両親の演奏仲間だっとという数奇な運命の物語。
絵は素朴なタッチで優しいが、強制収容所の場面はなかなかに迫力があって、見入ってしった。囚人服は白地にブルーの縦縞だが、これを見ていたら、50年近く前の中学3年の時に見たある映画を思い出した。ネットで調べたら『ゼロ地帯』と分かった。ナチの強制収容所の映画は何本も見たが、『ゼロ地帯』を見たときの衝撃が一番強い。
goo映画の『ゼロ地帯』紹介ページであらすじを読んだ。ストーリーから、15か16才のぼくはヒロインの少女に強く感情移入していたことが想像できた。あれからテレビでもビデオでも見ていないが、見たくなった。