初めて目にする画家の絵だが、表紙を見ただけでとても気にかかった。ニコ・ピロスマニは55才で亡くなっているが、生きた時代は日露戦争と第一次世界大戦の頃の人だ。黒海とカスピ海に挟まれた小さな国、グルジアを出ることがなかったらしい。しかも絵を描いていたのは首都トリビアの街を放浪しながらだという。伴侶を持つこともなく、孤独のうちに亡くなっている。絵は独学だということで、素人っぽいが素朴な画風に引きつけられてしまう。
本書には、ピロスマニ論や紹介がたくさん掲載されている。絵本作家のスズキコージ氏は1976年の「今日のプリミティヴ展」の中でビロスマニの3点の絵を見たと書いている。ミュージシャンのあがた森魚氏は1980年代中頃の西武百貨店の展覧会でビロスマニ知ったという。
ピロスマニの経歴を読むと、1973年に没したヴィヴィアン・ガールズの物語のヘンリー・ダーガーを思わずにはいられない。ピロスマニもまた50歳のときに、ペテルブルクからやってきた前衛芸術家やロシア未来派の詩人たちによって見出されている。あがた森魚氏がこのダーガーや稲垣足穂との関連のうえに「表現」のあり方に言及していて興味深い。なお、本書は展覧会でのカタログ等を除いてはニコ・ピロスマニの日本初の画集だと編集者のあとがきにあった。
ニコ・ピロスマニ 1862-1918
著者 ニコ・ピロスマニ
編集 木村帆乃
発行 文遊社、2008年3月
《追記 2008.10.28》
10月25日にモスクワ市近代美術館所蔵の「青春のロシア・アヴァンギャルド展」に行ってきた。会場はサントリーミュージアム[天保山]。ここにニコ・ピロスマニの10点の絵が専用のスペースに展示されていた。
・タンバリンを持つグルジア女性
・宴にようこそ!(居酒屋のための看板)
・ソザシヴィリの肖像
・小熊をつれた母白熊
・雌鹿
・イースターエッグを持つ女性
・コサックのレスラー、イヴォン・ボドゥーブニー
・祝宴
・ひよこを連れた雌鶏と雄鶏
・ロバにまたがる町の人
※特に「ひよこを連れた雌鶏と雄鶏」の風景から強い孤独を感じ、こころうたれた。