『インターネットが死ぬ日-そして、それを避けるには』を読む

ジョナサン・ジットレイン 著、井口耕二 訳(早川書房[ハヤカワ新書juice 003]、2009年6月発行)

インターネットが死ぬ日 (ハヤカワ新書juice)
ジョナサン・ジットレイン
早川書房
売り上げランキング: 38987

イントロダクションで、いきなりiPhoneが出てくる。スティーヴ・ジョブスのiPhoneの発表だ。その30年前、ジョブズはアップルⅡパーソナルコンピュータを発表している。アップルⅡは本質的に生みだす力を持つ肥沃な技術と言っている。それに比べてiPhoneは・・・

iPhoneの性格は真逆である。独創性を刺激することがなく、いわばやせた不毛な技術である。イノベーションを促進するプラットフォームではなく、すべてがきっちりと決められている。自分でプログラムを追加することはできない。機能はすべて決められ、ロックされている(アップル社はリモート・アップデートで機能を変更できる)。(中略)iPhoneはアップル(と独占キャリアのAT&T社)が望む以上のイノベーションを生みだすものではない。アップルⅡでは世界全体がイノベーションを推進したが、iPhoneではアップルのみがイノベーションを推進する。(p7-8)

続けて、マイクロソフトのビデオゲーム機、Xbox360だ。その実態はパワフルなコンピュータだが、iPhone同様にロックされている。肥沃なパソコンやインターネットが消える日は来ないだろうが、実用性をパッケージ化し、新たな実用機能の登場を許さない情報端末の普及と同時に、パソコン側でもロックダウンの動きが広がりつつある、という。

これは、インターネットでのスパム行為やプライバシーの侵害などが深刻化することによるものだが、それによってロックダウンが広がるとインターネットの死ということになると著者は警告している。「インターネットが死ぬ」なんて考えたこともなかったのでショックだが、本書を読むと、考えられないことではないと思えてくる。もちろん著者はネットの死を望んでいない。ネットを死なせないための内容だ。

著者はiPhoneやXbox360の登場は、1990年代のパソコン通信への逆戻りにたとえている。独自規格で規制の強いネットワークが乱立していた時代だ。コンピュサーブやニフティサーブなどの乱立だった。90年代のような規制に現在のインターネットユーザーはがまんできないだろうとする以下のマイスペースの説明がおもしろい。

マイスペースユーザーにとって大事なプライバシー機能は気密性ではなく、自治性である。そこにアップロードしたものが自分の手の内から逃げていくことがあったとしても、そにかく、ホームページを意のままにできるという感覚が大事なのだ。プライバシーとは、不当な介入や邪魔が入らず、自分のものだと呼べる何かを作ること――自分のアイデンティティを感じられる何かを作ることだ。この何かは、最も直接的には場所となることが多い。「自宅は自分の城」なのだ。(中略)マイスペースのページやブログ、その他さまざまなオンラインの場も、自分のアイデンティティの立脚点となる資格があり、その場合、気密性ではなく自分の意のままにできるかどうかがポイントとなる。(p431-432)

うん、分かる。ロックダウンされた機器やシステムでは、ユーザーは我慢ならないのだろう。

投稿日:
カテゴリー: Web