あの子と呼んでいたゴキブリが死んだ

昼ご飯を作ってたらカミさんがそばに来て「ゴキブリが死んでるよ」と言う。
「あの子やろか?」とオレ。
「あの子に間違いないよ」
「オレ、食事作ってるから始末してよ」
「隅っこの見えないとこで死んでくれたらいいのに・・・」と愚痴るカミさんについて行くと、オレのデスクの下で死んでる。

あの子が現れたのは2週間ほど前。ゴキブリホイホイにかからない賢いヤツで、居間をテリトリーにしていた。二人で食事をしてたりDVDを見てるとチョコまかと歩き回る姿がよく視界に入る。ゴキブリを始末するのはぼくの分担。殺虫剤は置いてないので、折り畳んだ紙の一撃でつぶしてしまう。しかし、そいつはその一撃からも上手に逃げて生き延びた。ある日、カミさんの後をチョコチョコとついて行くのを見て、ぼくはあれを殺すのはやめようとカミさんに提案した。それから二人でそのゴキブリを「あの子」と呼ぶようになった。

あの子と呼ぶようになって今日で1週間ぐらいかな。ほんとになぜ目の届かない隅っこで死ななかったんだろう。たいていのゴキブリはそうだろう。まるでこの世におさらばしたことをぼくらに知らせるみたいに死んでいた。