溝口健二監督/新・平家物語

NHK衛星放送で見る。1955年作品。カラー作品。新聞のテレビ番組欄にはデジタル・リマスター版とあった。今回の特集で見てきた中で初めてのカラー作品であり、きれいな状態でみることができた。作品は絢爛豪華な時代絵巻で、徹底した大衆娯楽作品となっている。平安末期の公家が没落し、武士階級が勃興する直前のややこしい時代の状況が良く分かる映画になっている。ここで、登場人物の精神性を求めても無駄だ。ひたすら、時代を活写することに情熱が向けられている。セット、衣装などのリアリティは半端でない。

庶民の集まる市のシーンから始まるが、立ち並ぶ物売りの小屋の広大なセットと庶民の雑踏には驚いた。比叡山の僧兵の集まるシーンにも驚いた。とにかく偏執狂的にこだわったであろう、監督の意思が嘘っぽさのない、すばらしいシーンを作り出したのだろう。それゆえ、飽きず、しらけず、退屈せずに最後まで見ることができた。

それに比べるなら若い清盛の市川雷蔵、清盛の正妻になる久我美子などの役者の演技は単純に元気なだけだった。むしろ、内面を表現するなどは、はなから予定になかったのかも知れない。とはいえ、清盛の母の小暮実千代は複雑な役でもあるが、影のある演技で存在感があった。ただ、ぼくは小暮よりも久我美子のファンだ。彼女のはつらつさが作品の華になっていることを否定しないが、物足りなかった。

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